BYDラッコの登場によって、一気に熱を帯びてきた軽BEV市場。そこへ軽自動車を知り尽くしたスズキが送り込むのが、2026年度内の市販化を目指す「e SKY」です。「BEVの前に、軽自動車である」を掲げる量産プロトタイプをサーキットで試乗すると、そこには速さや新奇性を競うのではなく、毎日の足として誰もが違和感なく使えることを追求した、実にスズキらしい軽BEVの姿がありました。自動車評論家の萩原文博さんのレポートです。
国産メーカーの奮起を望む声へのスズキの回答

BYD Auto Japan株式会社が2026年7月28日に発売した軽の電気自動車(BEV)「BYD RACCO(ラッコ)」は、軽自動車市場に大きな波紋を広げました。過去にも海外メーカーが軽自動車市場に参入した例はありますが、国産メーカーの牙城を崩すには至っていません。しかしラッコの登場に対する反響は大きく、SNSでは賛否さまざまな意見が飛び交いました。なかでも筆者の目についたのが、国産メーカーの奮起を期待する声です。

そのような中、軽自動車や小型乗用車といったスモールカーを得意とするスズキが新型軽乗用車「e SKY」のプロトタイプ試乗会を袖ケ浦フォレストレースウェイで行いましたので、商品紹介とインプレッションを紹介しましょう。

2025年のジャパンモビリティショーに参考出品された「Vision e-Sky」
今回サーキットで試乗を行った軽BEVのe SKYは、2025年に開催されたジャパンモビリティショーに参考出品された軽乗用BEV「Vision e-Sky」がベースの量産プロトタイプとなります。また、スズキとしては2025年9月発表、2026年1月発売の「e ビターラ」、2026年3月に発売した軽商用BEVの「e エブリイ」に続く、BEV第3弾モデルとなります。
EVである前に軽自動車たれ!

軽乗用BEV「Vision e-Sky」はユーザーの生活に寄り添う“ちょうど良い”がコンセプトでした。しかし、今回試乗したe SKYプロトタイプのコンセプトは“BEV(電気自動車)の前に、軽自動車である”に変わっています。これはパワートレインがエンジンからモーターに変更されていても軽自動車の「日常使い」を「ちょうどよく」カバーするクルマという意味です。今までどおり日常の足としてちゃんと「使える」クルマ、そして「日常使い」がもっと快適になるといい、を追求したとしています。
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すべてのユーザーの最大公約数はハイトワゴン

ボディタイプは、BYDラッコが軽自動車の新車販売ランキング上位を占める車種に多い、後席スライドドアを備えたスーパーハイトワゴンなのに対して、e SKYプロトタイプはワゴンRと同じく後席にヒンジ式ドアを採用したハイトワゴンです。これはアルトからスペーシアまで、スズキの軽自動車に乗っているすべてのユーザーをターゲットにしていることが理由。最大公約数となるスタンダードモデルのワゴンRと同じハイトワゴンとしたとのことです。

このe SKYを開発担当者の津幡智幸さんは、先代のアルト、アルトワークスを担当していたということもあり、フロントマスクはアルトワークスを彷彿させるデザインを採用しています。またサイドビューはスズキの名車・スズライトをオマージュとして、前後のピークから軽快に抜けていくショルダーラインを採用するなど、随所に往年のスズキの軽自動車のエッセンスを盛り込んでいます。
26kWhのバッテリーで航続距離310km

パワートレインは、コンパクトで軽量な3in1のeAxleをフロントに搭載。詳しいスペックは発表されませんでしたが、eエブリイのスペックを考えると、最大出力は64ps(47kW)、最大トルクは150Nmと予想しています。


バッテリーはeビターラ、eエブリイと同じ安全性が高く、バッテリー寿命も長いリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用。電池容量は26kWhで満充電時の走行可能距離は310kmとロングレンジになっています。また充電性能は普通充電が最大6kW、急速充電では50kWに対応しています。

日産サクラはパワフルだが航続距離は短い
すでに発売されている日産サクラやホンダN-ONE eといった同じ軽BEVで比較してみると、最大出力は軽自動車規格なので64psで同じですが、最大トルクはサクラの195Nm、N-ONE eが162Nmとなっています。また、バッテリー容量は29.6kWhのN-ONE eが最も多く、続いて26kWhのe SKYプロトタイプ、そして20kWhのサクラです。

ホンダN-ONE eは航続距離の長さがポイントだがe SKYはそれを上回る
このバッテリー容量の違いが満充電時の走行可能距離に影響を及ぼしており、バッテリー容量の最も小さなサクラは180kmです。最もバッテリー容量が大きなN-ONE eは295kmなのに対して、e SKYプロトタイプのバッテリー容量はN-ONE eより少ないにも関わらず310kmと長く、エネルギーマネージメントが優れていることがうかがえます。

また充電性能は、サクラが普通充電3kW/急速充電30kWなのに対して、N-ONE eとe SKYプロトタイプは、普通充電6kW/急速充電50kWとハイスペックとなっています。
価格は300万円を超えるかどうか注目


そして気になる価格ですが、最上級グレードで比べると、サクラGが299万8600円。N-ONE e:Lが319万8800円となっています。したがって、e SKYプロトタイプが300万円を超えるかどうかが注目のポイントとなります。


もちろん、BYDラッコの300プレミアムの249万7000円に近づいてもらいたいという希望はありますが、BYDは自社でバッテリーを製造しています。対して、スズキをはじめとした国産メーカーはバッテリーを購入しているので、BYDほどの価格設定をするのは相当厳しいと考えられます。

戦略的な価格で日本の軽自動車市場に乗り込んできたBYDラッコ
尖った部分のない優しいクルマ

e SKYプロトタイプを試乗した印象は、尖った部分のない優しいクルマです。開発陣は「すべての軽自動車ユーザーからの乗り替えを考えています」と話すとおり、良い意味でBEVらしい鋭い加速力や回生ブレーキによるワンペダル操作は影を潜めています。


軽ターボ車+αの加速性能、そして急加減速をしないようにアクセルペダルとモーターを調整するなど、エンジン車から初めてBEVに乗り替えたユーザーが驚くことなく、普通に乗れることを目指して開発されています。
営業マンに説明されなくても操作できる

インテリアや操作性も同様に、乗り替えたユーザーが営業マンなどに説明されなくても操作できるようにという配慮がなされています。もちろん10.1インチのディスプレイオーディオなどで先進性を主張していますが、ユーザーが長年親しんだクルマから乗り替えても違和感を感じさせないようにという日本車らしいホスピタリティを感じさせます。




快適装備としては、ダイレクトヒートポンプ+空気過熱電気ヒーター。そしてセンターコンソール後方にAC電源コンセント(100V/1500W)を装備するなどBEVらしい装備も満載しています。

ドライバーにも同乗者にも安心感を与える身のこなし

サーキットを走行すると、まずBEV特有の高い静粛性が印象に残ります。コーナリングではリアタイヤもしっかりと使いながら素直に旋回し、ロールも適度に抑えられていました。

限界性能を追求したスポーティさではなく、ドライバーにも同乗者にも安心感を与える身のこなしです。このあたりは先日試乗したBYDのラッコよりも好印象。例えるなら、非常にジェントルなアルトワークス。そんな雰囲気の走りでした。

軽自動車を作り慣れたスズキならではの技術と工夫が織り込まれたe SKYコンセプト。一体価格がいくらぐらいになるのか非常に楽しみです。
(写真:萩原文博)
※記事の内容は2026年8月時点の情報で制作しています。
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