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【スズキeビターラ】「EVも“小さい、軽い、安い”」公道試乗編〜開発者インタビュー(島﨑七生人)

スズキeビターラ開発者インタビュー
スズキeビターラ開発者インタビュー

その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第96回は2026116日に発売されたスズキ初のBEV(バッテリーEV)「eビターラ」(3993000円〜4928000円)*の公道試乗会での開発者インタビューをお届けします。過去2回のインタビューでは聞き出せなかったより深い話をスズキ株式会社 BEVソリューション本部 BEVBC商品統括部第1カーラインの山田 和明(やまだ・かずあき)さん、四輪車両運動設計部 サスペンション設計課 主幹の神野 紘二(じんの・こうじ)さん、四輪EV/HEV駆動設計部 トランスアクスル設計課 係長の伊藤 考人(いとう・たかひと)さんの3名に伺いました。

*国のCEV補助金として127万円が交付予定(2026331日登録分まで)、20262月時点の情報です

コンパクトなEVこそスズキの強みが活かせる(山田さん)

スズキeビターラ

島﨑:そもそもeビターラは、そういう位置づけになるのですか?

山田さん:このクルマはEVでありながらコンパクトなところが特徴です。軽のEVは出ていますが、ほかを見渡すと比較的大きい車格になってくる。日本車でいえばbZ4Xとかリーフとかちょっと大きめのサイズ感です。その中でeビターラはコンパクトさを特徴とし、さらに掛け合わせとして4輪駆動も備えたEVというところでオンリー・ワンの存在かなと思っています。

島﨑:コンパクトというところは、スズキのクルマとして大事にしているところなのですね。

山田さん:そうですね。我々のクルマはやはりコンパクト、そこが売りだと思っているので、コンパクトなクルマを作ってこそ我々の強みが生かせると考えています。

島﨑:スズキといえば軽自動車のユーザーの方も多いですしね。

山田さん:そこの部分もあります。ただICEからEVへの乗り換えはハードルが高いかなとも思っていますので、メインに想定しているのは環境やEVに感心をお持ちの方というところで、すでにEVにお乗りの方に乗り換えていただくというところも考えています。

島﨑:意識高い系の方たち。

山田さん:ああ、そうですね。ただ今スズキのICEにお乗りのお客様のことも考えて、乗り味は比較的ICEに近いように意識しました。アクセルを踏んだ時のマイルドな加速感の立ち上がりとか、恐怖感なく、「ICEのよく走るクルマだね」と感じていただけるようなフィーリングを大事にしています。

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インド向けにはシートベンチレーション、日本向けにはV2H100V電源を(山田さん)

スズキeビターラ

島﨑:開発時に仕向け地は決まっていたのですか?

山田さん:欧州、インド、日本をメインの市場に考えています。欧州はCAFE規制も厳しいところから今回はいの一番にリリースさせてもらいました。

島﨑:仕向け地ごとの仕様の違いはありますか?

山田さん:少しずつあります。日本でいくとV2Hが付いていたり、後席の100V電源がついていたりTVが観られたりします。欧州は上級グレードに19インチのホイールも設定があります。

島﨑:日本仕様より1インチ大きいのですね。


山田さん:インドだと暑いので、フロントシートにヒーターの代わりにベンチレーションが付きます。

島﨑:ちなみにヒーターとベンチレーションの両立は可能なんですか?


山田さん:それはちょっとわかりませんが……

島﨑:そうですか。

山田さん:使用頻度の高さで選んでいます。まあ何か付ければそれだけコストは上がっていくものですから。装備はお金をかけた分、お客様にメリットとして1番反映できるようにと考えています。

スズキeビターラ

島﨑:走りの部分での仕向け地ごとのスペックの違いは? 乗り心地の部分ですとか。

山田さん:それでいくと差はないはずですが……。

島﨑:山田さんのご担当といいますと?

山田さん:ユーロNCAPと国の補助金のところをやっておりまして……

島﨑:ユーロNCAPに関しては、いろいろおありだったのでは?

山田さん:ユーロNCAPは初めてBEVで試験を受けることになりましたので、追加でこんな書物が必要だといったことが後からいろいろ判ったりして、設計とのやりとり、調整がありました。ガソリン車であれば我々も知っており、スムースに行くようなところが、BEVに関しては新たに必要なことがあったり。

島﨑:タイミングによっては焦ったりも……。

山田さん:……しました。実験日も公表日も決まっている中だったので、滞りなく進めなければならず、毎日ヒヤヒヤしながら……。私自身が書物を作る立場ではなかったですが、設計やいろいろなところにお願いごとをし、それをガシッとかき集めて出す。部署も多かったので大変でした。

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国の補助金は3月末までは127万円、ほぼMAXを獲得(山田さん)

スズキeビターラ

島﨑:それぞれの役割を果たされたからこそ発売になったんですね。ところでそもそもこのeヒターラは日本でも出す前提で開発されたのですよね?

山田さん:そうです。

島﨑:もう10年以上前でしたか、とあるスズキの方に「やはりレンジエクステンダーでしょうか?」などと訊かれたことがあって、電動車を果たしてどういう方向で出してこられるのだろう?と思っていた頃がありました。当然、いろいろな模索はされてこられたのでしょうね。eビターラの開発はずいぶん前からのことになるのですか?

山田さん:入り口でいうと、プラットフォームから今回は新規なので、2020年あたりからトヨタさんと協業で開発していました。

島﨑:協業、そのあたりはどうでしたか? 漠然とお訊きしますけれど。

山田さん:漠然とお答えすると(笑)あくまで協業はプラットフォーム、バッテリー、eアクスルですね。そこから先のアッパー部分、作り込みの部分は完全に我々で開発を行ないました。それの顔違い、バッジ違いのものはすでに欧州で出ているということです。

島﨑:いわゆるOEM供給の車種とは開発のレベルや規模は、さらに踏み込んでということだったのですね。そのほかにeビターラに関して何かありますか?

山田さん:国の補助金は現時点で3月末までは127万円いただいています(取材日は2026127日)。マックス130万円の中で最大限の評価をいただのは、まさにスズキ初の申請、評価だったのでありがたいことです。

島﨑:山田さんや開発の皆さんのご努力の賜物ですね。

山田さん:補助金込みの購入金額で見ていただけると、もちろん商品力全体を含めて、かなり競争力のあるクルマになっていると思います。

日本向けと欧州向けの足回りはタイヤも含めて同じ(神野さん)

スズキeビターラ

島﨑:やっと一般公道で乗ることができたのですが、第一印象として、かなり引き締まった足だなぁと感じたのですが、そのあたりいかがでしょうか?

神野さん:“引き締まった”というのはいい意味のことで?

島﨑:あの、両方といいますか……。サーキットなどでは飛び上がらない限りガツンと急激な入力は来ないので見えにくかったのですが、一般の道では、とくに車両重量の差からなのか、2WDのほうがクルマが上下に揺すられるように感じまして。ダンパーの減衰とか、タイヤ自体がもう少しイナしてくれる感じがあるとどうなのかな、と。

神野さん:ああ、バネ上が動いて揺すられる、もっとスーッと行くといい、と。

島﨑:ええ。タイヤ、サスペンションでイナしてくれて、上屋は揺さぶられずにスーッと走ってくれると、乗り心地として洒落たこのeビターラらしいのかなと感じました。

神野さん:そういうことですね。実は4WD2WDは車重も違いますので、足は違います。コイルスプリングのバネ定数も別々のセッティングですし、それぞれのクルマに合わせてダンパーもセッティングしています。

島﨑:そうですか。これは乗り味に関しての個人的な好みですが、運動性能の話は別にして、おしなべて4WDで車重があるクルマのほうがボディの重みがアシを押し付けて、煽られたり突き上げられたりしにくく、フラットライドになると思うのですね。その点でいうと、eビターラは2WD4WDでその差が感じにくいと感じました。

神野さん4WDも重いけれどそれなりにボディが動かされる……という意味ですかね。その意味でいうと、クルマが重たくなっている分、コイルバネを硬くしているんです。なので同じストロークをした時の反力の出方も、重いんだけれども反力も大きくなっている。その分のコイルバネの反力によって動いている……というところがご指摘されているところかなあと思いました。そんなイメージでしょうか?

島﨑:そうですね。で、そういうセッティングであるなら、もし自分クルマとして乗るのであれば、タイヤの空気圧を調整して、タイヤのサイドウォールを撓(たわ)ませて、その反力をイナしたり、前後の空気圧を変えてみたりして調整するかもしれません。タイヤは?

神野さん:同じものを履いていますし、空気圧の設定も変えていないです。

島﨑:このアシの設定は日本仕様独自ですか? 仕向け地ごとに違っているのですか?

神野さん:日本と欧州は基本的に道路環境はいいというところで同じ設定にしています。仕向け地によって、荒れた路面が多い地域ですとかはまた別の設定にしています。スタビライザーは仕向け地では変えていないです。タイヤは地域により求められているところが違うので変えていますが、日本と欧州は一緒です。

島﨑:日本仕様と欧州仕様は基本的に同じということですね。

神野さん:そうです。欧州の高いスピードレンジでシッカリ走るように作っていますので、日本仕様でそこまでのスピードレンジまで行かないところでは、もしかしたら硬いかなという印象を持たれたのかなあと思いました。

島﨑:バッテリーを搭載している分の重量増への担保もあるのでしょうね。

神野さん:ありますね。やはりクルマが重たくなった分、バネ定数もある程度のところで設定しておかないと、ということで、EVだからというよりクルマの重さに合わせて高めの設定にはしています。

島﨑:きょうの試乗車は走行距離も3桁台のかなり新車でしたから、クルマそのものの馴染み具合、こなれ具合もこれから出てくるかもしれませんね。

神野さん:もしかしたら、そういうこともゼロではないかもしれません。

リアにマルチリンクを奢り、欧州でしっかり作り込んできた(神野)

スズキeビターラ

島﨑:神野さんの直接のご担当はというと?

神野さん:専門でいうとリアのマルチリンクの設計をやっていました。もちろんチームのメンバーにはバネとかアブソーバーをやっているメンバーもいますし、実際にはテストエンジニアと一緒に、彼らが実際にクルマに乗って、どういう風にもっていこうか最終的に決めています。

島﨑:リアサスペンションは2WD4WDも共通なんですね。改めてマルチリンクのよさは、たとえばシンプルなトーションビームなどと較べてとこにありますか?

神野さん1番わかりやすいのは、たとえばトーションビームは前側のひとつのブッシュですべての特性を担います。それがマルチリンクでは横方向は横方向のアームでありブッシュであり、前後方向は前後方向のアームでありブッシュでありと、役割が分担させられます。なので横方向は走りをシッカリさせるために硬くしたい、前後方向は柔らかくしてハーシュネスや継ぎ目を吸収したいといった設計の自由度が広がります。

島﨑:なるほど。だとしますと、たとえばハーシュネスの伝わり方をもう少しマイルドにといった注文にも応じていただける訳ですね。

神野さん:そうですね。きょうの島﨑さんのお話を聞いていると、橋の継ぎ目のような細かい段差をパン!と通過した時の吸収はいいと思っていまして、前後方向の硬さ、横方向のしっかり感も皆さんから好評の言葉をいただいています。上下のところが硬いなと思われているとしたら、コイルとかアブソーバーの減衰の設定がスポーティな方向に振っているのかな、と。もし手を入れるとしたら、バネ、アブソーバーをもう少し乗り心地に振った設定に比重を上げた適合かなあと思います。

島﨑:車重はそれなりにありますが、現状で軽快に走ってくれる印象はありますね。そのほか神野さんの担当から“ここは!”というポイントはありますか?

神野さん:操安、乗り心地の目線でいうと、やはり欧州でしっかり作り込んできましたので、変にキビキビし過ぎず、ダレてもいず、ドライバーが気持ちよく素直に走ってくれると感じられるところを目指しました。リアにスズキに多いトーションビームではなくマルチリンクを採用したのも、EVになり重くなるということで横方向の剛性をシッカリさせる目的でした。また静粛性も気にして、ボディは剛性も出しながら、柔らかく遮音もシッカリ確保しましたが、これもマルチリンクのポテンシャルの高さによるものでした。

島﨑:トヨタ版のクルマとのスペックや考え方の違い、作り分けはあるのですか?

神野さん:してない、です。スズキで作り上げてOEMで出しているので、デザインや外観は先方の思想でやっていますが、クルマの中身の部分は分けてはおりません。

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トヨタに学びつつスズキらしさを注入(伊藤)

スズキeビターラ

島﨑:先ほど山田さんともお話していたのですが、何年も前にスズキのとある方とEVの話題になった時に「やはりレンジエクステンダーですかねえ」と仰っていたのですが、やはりそういう検討もされていたのですか?

伊藤さん:モーターショーにも出させていただいていて、だいぶ作り込んではいたのですが……。

島﨑:実現には至らなかったのですね。

伊藤さん:品質とコストのハードルがなかなか高くて、最後まで行けなかったのが実情でした。

島﨑eビターラに晴れて搭載されたeアクスルは、順調な開発だったのですか?

伊藤さん:やはりEVとしての知見がまったくなかったものですから、ユーザーの方の使い方であったりとか、EV特有のところはどこなんだろう?をまず探るところからやりました。ただ共同開発ということで、先行メーカーの知見をいただき、ご協力いただいて、割とスムースにできたのかなあと思います。

島﨑:ハイブリッドのほかに、あ、あの大文字小文字と数字を混ぜた4桁のパスワードみたいな車名のあのクルマですね。

伊藤さん:そうです(笑)。

島﨑:とはいえボディサイズなども違いますし、そのあたりの料理の仕方はどうされたのですか?

伊藤さん:共同開発といってもやはり文化が違うので。スズキは“小さい、軽い、安い”がガソリン車で培ってきたノウハウです。あちらは上質、快適というところがある。そこに対してスズキらしさをどう入れていくかという話をしながら、スズキには“小・少・軽・短・美”ということがありますので、コンパクトにする工夫も取り入れ、eアクスルにしてもコンパクトでも出力高めのものを作らせていただき、スズキらしさが入れられました。

島﨑:コンパクトとは、言葉では僕らも簡単に言いますが、実現するのは大変なんでしょうね。

伊藤さん:大変は大変ですね。

島﨑:そんなことできるわけないじゃん……といったことも?

4WDのリアeアクスルは前例なき逆回転(伊藤)

スズキeビターラ

伊藤さん:できるわけないじゃんということでいうと、だいぶチャレンジだったのは、今回4WDに対してeアクスルを前後に2基積んでいるのですが、後ろを同じ向きで積もうとしたところ後部座席を圧迫してしまったので、4WDではリアのeアクスルを180度後ろ向きに回転させて搭載する置き方をしました。トランスミッションやエンジンを逆向きに回すのは本当はあり得ないのですが……

島﨑:では反転させて使うように?

伊藤さん:いや、単純に逆回転させました。それでも成立するように潤滑やギアの当たり方とか、どちら向きの回転でも両立させられるように作ってあります。ユニット目線でいうと、クルマを160kmhでバックで走らせても大丈夫……そんな使い方になっているんです。

島﨑:そんな前例はないでしょうね。

伊藤さん:ないと思っています。ここもスズキ目線で少しでも安いモノを作りたいというところから、まあ4WDのリア側はフロントほど出力は必要ないことから、モーターは中身の磁石のボリュームを4割くらい減らし、出力を下げる修正は入れています。フロント側に入っているキーロック機構もリアは不要になるので抜いて軽量化もさせています。できるだけ部品は共用で少しでも安くという思想は取り入れています。

島﨑:スズキというと4WDのイメージもあって……

伊藤さん:今回、世界戦略車としてグローバルで売っていくには4WDは外せませんでした。とくに欧州ではスズキというと4WDのイメージが強い。最初から4WDをやるぞ!ということだったので、それに向かって進もうというだけでしたね。

 (写真:島﨑七生人)

※記事の内容は2026年2月時点の情報で制作しています。

 eビターラの過去の開発者インタビューは以下を参照ください

【スズキeビターラ】「スズキっぽいのか、スズキっぽくないのか?」デザイン編〜開発者インタビュー(島﨑七生人)

【スズキeビターラ】「アピールしたいのは四駆の存在」〜開発者インタビュー(島﨑七生人)

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