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【BYDラッコ】「変化球を使わず、ど真ん中にストレート」〜開発者インタビュー(島﨑七生人)

BYD ラッコ_開発者インタビュー_2608
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その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第99回は中国から日本の軽自動車市場にやってきたBYDのラッコ(2145,000円 〜 2497,000円*)です。2026728日に発表され2週間で1000台超の受注と、好調なスタートを切ったスーパーハイトワゴンのEVについて、BYD JAPAN株式会社 取締役 社長室 室長の張 俊衛(チャン・ジュンウェイ)さんとBYD Auto Japan株式会社 商品企画部 部長 CKプロジェクトリーダーの田川 博英(たがわ・ひろひで)さんにお話を伺いました。

*全グレードで一律15万円のCEV補助金が適用されるため、実質的な購入価格は1995,000円 〜 2347,000円(20268月現在)

3チームの社内コンペで選ばれたのがラッコ

BYD ラッコ_開発者インタビュー_2608

島﨑:いよいよこのラッコが日本で発売になりましたが、今、どういうお気持ちですか?

張さん:待ちに待った感じですね。今までの車種は中国で販売してから海外の展開でした。車幅など最初から日本のために開発した車両ではなかったので“ここをもう少しこうすれば……”といったことがありました。けれどジャパンモビリティショーにお出ししたラッコは、最初から日本のために開発段階で我々のリクエスト、フィードバックを本社側が全部聞いてくれて出来ました。

島﨑:日本からリクエストを伝えて。

張さん:ええ、そのリクエストに対して開発チームも日本に来て、競合の軽自動車がどういう状況なのか、外観から内装を含めて全部、あと使い勝手も調べました。それと社内コンペもやりまして……。

BYD ラッコ_開発者インタビュー_2608

20年以上、BYDの日本事業に携わってきた張さん(写真:編集部)

島﨑:コンペは多数案があったのですか?

張さん:プロジェクトを立ち上げる前にエンジニアで3チームを作り、そのうちの勝ったチームの案で最終的に決まりました。

島﨑:非常に興味深いお話ですが、それぞれどんな案だったのでしょうね。

張さんBYDではこのラッコに限らず、ほかの車種でも、Aチーム、Bチーム、Cチームとメンバーもそれぞれ違うチームを作って提案します。そして各チームの案はデザインから室内の収納、コスト、開発スケジュール、品質と、プレゼンをやって点数づけがされて、最終的には会社から権限を与えられた案が開発へ……そういう流れになります。

島﨑:ちなみにウイナー以外の案はどんなクルマだったのですか??

張さん:同じ軽ですがデザインが違ったり、と。

島﨑:ウイナーはどういう点で選ばれたのでしょう?

張さん:電気シフト化に相応しいスーパートール、スーパーハイトのデザインであったり、内装では置き去り防止の機能、収納関係の充実度などで選ばれたと思います。

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迷わずガソリン車で一番売れているところに

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島﨑:開発メンバーには日本のメンバーは含まれていたのですか?

張さん:オール中国人でした。日産から移ってきた田川もラッコの試作車が出来て1年経ってからの入社でした。

(ここで田川さんに合流していただく)

島﨑:ちょうど今、お話を伺っていたところですが、田川さんはラッコの開発のスタートから見ていらした訳ではなかったのですね?

田川さん:入社は1年前です。ここにいる張と社長が面接官でした(笑)。

島﨑:ラッコに関しては企画段階というよりも……?

田川さん:僕が受け取ったのはもうまったくでき上がっている、JMS(ジャパン・モビリティ・ショー)で見ていただいたあのクルマが、中国でできた時に見に行ったのが初めてというくらいでした。コンペで3案から絞った段階はぜんぜん関わっていないです。

BYD ラッコ_開発者インタビュー_2608

日産で2代目デイズや先代ルークスの開発責任者を務めた田川さん(写真:編集部)

島﨑:田川さんご自身のファーストインプレッションはどんなものでした?

田川さん:いわゆる背の高いスライドドアをEVにしたほうがいいよとは最初の面接でも言いました。ある意味、その通りのクルマになっていて、たいしたもんだね、凄いなとまず思いました。率直に言うと、顔はとっても乗用車になっているのですけど、リアが僕からすると商用車感が少し残っている。四角いパチーンとした板にしているところが、もうちょっと抑揚を付けても本当はよかったのかなぁ、という気はしています。

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島﨑:でもそれは、物凄く王道を行ったからこそのことだと思いますが……。

田川さん:もうその通りですね。迷わずガソリン車で一番売れているところに出てきたところは感心しましたし、僕もBYD生活1年くらいになりますが、考え方がシンプルでなんですよね。何も変化球を使わず、ど真ん中にストレートに入れるというのがありましたね。

島﨑:誰にも何の説明も要らないストレートさですよね。

田川さん:航続距離も1番最後に出すのだから300kmは超えようよというのもとても素直だし、設計チームに迷いがないのは、その後も話をして感じました。

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BYDの真面目さ、意識の高さ

BYD ラッコ_開発者インタビュー_2608

写真:編集部

島﨑:開発チームは日本車もジックリと見ていらしたのですね。

田川さん:もちろん、もちろん。僕が深圳に行った時にも開発の途中でN-BOX、タント、サクラはありましたから。僕が参加する前の24年の12月にプロジェクトがゴーになったあとに、チームのメンバー10人くらいが日本に滞在して、日本でどのように使われているのか、駅前の塾で自転車を本当に積んでいるところとか、そういうのを見て実感して、日常で使われているのを理解するところからスタートしてくれているので、メンバーが受けた印象を素直にクルマにしてくれているなあと思いました。

島﨑:日本の軽自動車をジックリと研究された上でのラッコということですが、さらに田川さんの目線でシンプルであるほかにさらにBYDらしさというと、どういうところになりますか?

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田川さんBYDらしさというと、深圳のいろいろな路面を再現しているテストコースなんですが、そこで乗った時に物凄く感じたのはボディ剛性がCTBCell to Body)を使って、ルーフの溶接もレーザーを使っているので、どえらい剛性だなと思いました。そういう、軽だからここは省いてもいいだろうとか、走る/曲がる/止まるなども上級クラスのクルマとも差をつけずに作っているところは、BYDの真面目さ、意識の高さがありますね。

島﨑:ベテランのエンジニアの田川さんの目から見ても、コストを含めてそう思われたんですね。

田川さん:本当にそう思います。バッテリーが創業の会社なのでバッテリーのコストも凄く競争力がありますし、もう1つは垂直統合なので、サプライヤーさんに出すのではなく自分たちのグループの中で部品も作っているところの競争力、スピード感もぜんぜん違うと思います。

軽自動車の新しいスタンダードを作っている

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島﨑:前職と較べて、何か思うところはありましたか?

田川さん:実はサクラの時に、実はスーパートールのBEV1番最初に作りたかったんです。でもいろいろな事情でそれができなかったので、ラッコを最初に見た時は「よく作ったね」と拍手していました。サクラは全高1655mmでリアがヒンジドアで、そこがぜんぜん違います。発表会でも申し上げているのですが、ラッコはスーパートールでリアがスライドドアであり、ラッコは単なる軽のEVじゃないんです、今ある軽のEVと較べないでください、と。私たちは軽のガソリン車で販売台数の半分を占めているスーパートールのお客様に振り向いていただきたい。イコール軽自動車の新しいスタンダードを作っているんですよ。これはクルマを初めて見たときに思いましたし、その時のファーストインプレッションを皆さんにお伝えしているんです。

島﨑:新しいスタンダード。自信がなければ出てこないフレーズですね。

BYD ラッコ_開発者インタビュー_2608

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田川さん:カタログに“こんなカタチの軽自動車でいちばんいいクルマでありたいと思いました”とつけているのですが、あれって僕が最初にこのクルマを見た時の印象なんです。何か背を高くしてとにかく広いだろう!と自慢するのでもなく、とにかくトルクだけ上げて、BEVならそれはやれば出来ますが、ただ速いんだぞ!というクルマでもなく。やっぱり広くて便利で気持ちよく走れて安全性がちゃんとあってという、クルマとしてひとつにした時に“1番いいクルマだねということを伝えたいなあと思いました。

島﨑:コンセプトが明快ですね。

田川さん:エクスキューズがないクルマになっていると思っています。

島﨑:素直で、何か飛び道具を売りにしているクルマではないんですね。

田川さん:今の国産車のクルマ作りは、何かほかと違えたい、そうなるとどうしても表面の“皮”を変えたり、装備系になってしまう。そうすると多分、2年もすれば誰でも追いつけちゃう。でもパッケージとかバッテリーを2種類用意するということは、時間をかけないとなかなか追いつけない。表面的なところではなくて本質的なところで勝負ができている。

島﨑:バッテリーが2種類なんていうのは、確かにBYDだからこそですね。

田川さん:もっと上級のクルマだと、4WD用とFF用で2種類用意できます。500万円、600万円のクルマなら。お客様の使い方を考えて軽クラスでも2種類用意できるなんていうのは、BYDじゃなければできない技術であり、BYDらしさだと思います。

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最初の土日だけで1100組が来場

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島﨑:反響はかなりのようですね。

田川さん:発表会をさせていただき、最初のデビューフェアを済ませましたが、ほぼすべてのお店で、いまだかつてない人だったと聞いています。

張さん:試乗予約がなかなかとれないお客様が出てしまったりと、今までにないような反響をいただいています。

島﨑:ディーラーも続々と増えていますね。

田川さん:ラッコの発表と重なって7月から8月にかけては出店ラッシュでした。

BYD ラッコ_開発者インタビュー_2608

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島﨑:クルマの供給の状況はいかがですか?

田川さん:“200”は問題なくできるのですが、“300”については今年春に出した第2世代のバッテリーと生産工場が同じで、本国でも受注残があり取り合いになっていまして、300のバッテリー生産が9月に入ってからにならないとできないので、お客様へのご納車は10月くらいになってしまう見通しです。

島﨑:そうですか。

田川さん200のほうは、きょう(取材日=83日)ハンコをいただければ、色とか合えば月末にはご納車できるような感じです。

島﨑:そのあたりは張さんや社長の東福寺さんからから強力にプッシュしていただいて……。

田川さん300、早く作ってよ! お願いしますよ!と。

張さん:でも今回のラッコは、本当に今までになかったような出足のよさで、手応えを感じており、みな一丸になっていまして。

田川さん:最初の土日だけでご来場が1100組ありまして、これは直前の月間のご来場数に匹敵します。

BYD ラッコ_開発者インタビュー_2608

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張さん:おもしろいのは、ラッコを見に来られたお客様がとなりにあったドルフィンをご試乗されて注文いただいたり、ラッコを見に来ていただいてシールというクルマを知っていただいたり……と。

田川さん:ラッコがBYDを知っていただくきっかけにもなっています。

島﨑BYDはラッコも含めて紙のカタログもしっかり用意されているんですね。

張さん:中国ではスマホでQRコードを読み込むのが一般的で、本社からは「日本はまだ本のカタログが必要か?」と言われていますが、そういうこともひとつひとつ交渉しながら進めています。

島﨑:紙のカタログは必要だと、強くお伝えください、トイレの中でも眺めているんですから!と。

田川さん:トヨタさんなどは紙のカタログはもう止めていますからね。

BYD ラッコ_開発者インタビュー_2608

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島﨑:それとあとひとつ、これは懸念材料でもあるのですが、軽のラッコが出て、街中で充電したいクルマが今よりも増えると思いますが、そのあたりはどうお考えですか?

田川さん:そこはeMOBILITYさんとか、ウチの販売店もそうですが、みんなで充電スポットを増やそうという方向になればと願っていますね。最近では高速道路のサービスエリアでも1基だけでなく2基、3基と立つようになってきましたし、台数が増えることでインフラも増やそうという方向に変わっていくと思うので、時間とともに解決していくことだと思っています。

島﨑:ラッコのユーザーの方はどういう使われ方を想定していますか?

田川さん:基本はやはりお家で充電される方が多いんだろうなあとは思っています。ただ僕もマンション住まいですが、販売店だったり日産さんだったりの急速充電を使うことは想定していますから、そういう方ももちろんいらっしゃるとは思います。

張さん:自家充電される方なら、バッテリーがそれほど大きくないので、一晩挿せば、翌日には満タンにできます。

田川さん:一歩一歩着実に。ウチはネットワークもちゃんと立てますし、こなせる範囲でやっていければなあと思っています。

ルークスなんていう名前のクルマは知らない

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島﨑:ところでラッコのこのプレーンなスタイルの評判はどうですか? “N”とか“タ”に似ているよね、とか……。

田川さん:ネガティブなご意見はあまり聞かないですね。基本的にはシンプルでいいね、とか。イベントなどでも買わない方は「Nボやタントに似てるね」と言い放っていかれる方もおられますが、あの形をとったら誰がどこから見ても……。ウチの嫁もNボとタントは区別がつきませんから(笑)、そんなものです、と思っています。ただクリーンでシンプルで、イラついた顔はしていないし、そういう意味ではとってもご評価いただいていると思っています。

島﨑:何かに寄せたデザインにしたということは?

田川さん:ぜんぜんないです。昨年出た僕の後輩がやったルークスもカドが丸いをデザインのキーワードにしていますが、そこは我々ももとから考えてやっていたことですし、お客様の生活に溶け込んでいきたいという意図もあって、包み隠さず申し上げれば、そういうことです。

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写真:編集部

島﨑:リアクォーターのコンコルドの垂直尾翼のようなところも?

田川さん:そうなんですよ。1個前のルークスとメチャメチャ似てるんで、去年、深圳(シンセン)に行った時にデザイナーに「日本にルークスっていうクルマがあるんだけど見たことある?」って訊いたところ「そもそもルークスなんていう名前のクルマは知らない」と言われました。人間って考えることは一緒で、サイドビューで見た時に、止まっている感じに対してモーションを出したいと思うとああいう手法になるのは一緒なんだなぁと。

島﨑:全高の1800mmはどこから決まったのですか?

田川さん:外側というより内側で、後席に乗り込んだ時に室内高の1400mmがひとつの基準になっていて、そこからバッテリーを積んで、タイヤが扁平率65で径がひとまわり大きいものにしているので、その分で背が高くなったということです。

島﨑:いろいろなお話をどうもありがとうございました。

(特記以外の写真:島﨑七生人)

※記事の内容は2026年8月時点の情報で制作しています。

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