その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第98回は2026年7月1日に一部仕様変更を行ったスズキ「ジムニー ノマド」です。2025年1月30日に発表されるや否や注文が殺到、わずか4日で受注停止となった超人気モデルのメディア向け試乗会がようやく開催されました。そんなノマドの人気の理由、“2型”の進化ポイントなどをスズキ株式会社 商品企画本部 参与の藤﨑 雅之(ふじさき・まさゆき)さん、商品企画本部 四輪グローバル商品統括部 アシスタントCEの柳本 樹良(やなぎもと・きよし)さん、 商品企画本部 四輪インド B・C・Dセグメント商品統括部長の鈴木 陽一(すずき・よういち)さん、四輪車両運動技術本部 車両性能つくりこみ部 四輪車両運動性能つくりこみ課の木方 靖浩(きほう・やすひろ)さん、四輪ADAS開発部 ADAS先行技術開発課 主任の志村 亮祐(しむら・りょうすけ)さんの5名の開発者の方々にたっぷりと伺いました。
1番怖いのは工場の稼働率が下がること

発表から1年半経ってようやく開かれたノマドのメディア向け試乗会(写真:編集部)
島﨑:これまで犬の散歩で道を歩きながら、路上で幾度となくジムニー ノマドが走っていく姿を目撃してきました。つい昨日もグラナイトグレーのクルマがコンビニの駐車場に乗りつけられたり。女性でしたけど……。
藤﨑さん:すいません。とくに営業などは試乗会やりたいやりたいと言っていたのですが、なにしろバックオーダーがあれだけあるのに試乗会をやるのはどういうことだ、そんな声もあったものですから……。

最初に話を伺った3名の開発者の方々。左から藤﨑さん、柳本さん、鈴木さん
島﨑:“FAQ”になってしまうと思いますが、そもそもこれまでの経緯は何がどうしたことで起こったことだったのですか?
藤﨑さん:遡ると2018年の3ドアの始まりに行くのですが、先代のJB23系は、軽自動車が月1000台、シエラが月100台でした。で、18年ぶりのフルモデルチェンジだったので、最初はそれなりの台数は出るとは予想しましたが、ジムニーは特殊なクルマだからいずれ落ち着くだろう、と。メーカーとして1番怖いのは工場を大きく取ってしまって工場の稼働率が下がること。当時は修会長も健在で工場の管理が物凄く厳しかったこともありまして。
島﨑:そうだったんですね。
藤﨑さん:いずれ落ち着くということで。高を括ってた部分もあったのですが、いざフタを開けてみたら、プロの道具としてピラミッドのトップを狙った企画だったのですが、若い方や女性などのフォロワーの方々が予想以上に増えて、そこまで想像できなかったこともあった。暫くしてこのままでは持たない……と一定の増産対応を入れたのですけど、それでも追いつかないくらいのオーダーが入った……。
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海外の方に我慢していただいた

島﨑:嬉しい悲鳴以上だったのですね。当時、そうした予想も付かない状況が起こった要因って何だったのでしょう?
柳本さん:やはり男から見てもカッコいい、女性から見てもカワイイ。とくに女性ユーザーの方にもの凄く興味を持っていただけて、爆発的に乗られる方が多くなって、フォロワーの方、それまではジムニーに興味を持たれなかった方にも買っていただいて、生産台数の増加に繋がりました。
島﨑:ジムニーというと、やはり昔からこだわりのユーザーが乗るイメージでしたが。
柳本さん:ええ、ただ昔はそれなりにしかいなかった。釣りに使う、雪国で通常のクルマではスタックしちゃうようなところで使われるとか、普段乗りで使われるお客様はある一定数に留まっていました。
藤﨑さん:ファッションで乗る人が想像以上にドーンと増えた。企画の狙いはプロを目指したのですが、フォロワーの方々にも予想以上にハマっちゃって……。女性からカワイイと言われるなんて1mmも考えていなかった、ゼロでした(笑)。
島﨑:ベテランの開発者の方々の想像力をもってしても、それを超える事態が起こったんですね。
藤﨑さん:3ドアでそういう状態になり、5ドアのノマドを出すにあたり、そこを想定した工場にしたのですが、それもまたさらに想像を超えて。3ドアの人気が上がってベースラインが上がってしまって……。

島﨑:海外市場向けの台数を確保するために日本市場の台数が制限されてしまったということは?
藤﨑さん:ないです。
島﨑:海外を優先するから日本は少々お待ちください……というようなことは?
藤﨑さん:逆です。日本で予想以上に爆発的に売れたので、海外の方に我慢していただいたところがあります。
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“2型”はステアリングを少し軽く、足回りもクッション性を良くした

島﨑:今回のノマドですが、“2型”と仰っているんですね。安全機能が進化したほかには?
柳本さん:車外騒音対策のほか、足回りもリセッティングして、安全予防のデュアルセンサーブレーキサポートIIも付いたので、ステアリングのチューニングも変えています。
島﨑:ほう、ステアリングも?
柳本さん:お客様の層が5ドアになると普段使いで奥様が運転されたりもしますので、ステアリングを少し軽くして、低速で扱いやすいように変更しています。足回りもクッション性を良く、凸凹したところでも上モノができるだけ揺れないようにしました。

島﨑:“1型”に乗っていないのでわからないのですが、ほかにも何かありますか?
藤﨑さん:静粛性のところで、マスサイレンサーの材質を変えたりしています。
島﨑:それはどこの箇所ですか?
藤﨑さん:エンジンルームと運転席の間の隔壁のエンジン側に付いている不織布のような部材も、それまでのジムニー使いではないような方もお乗りになることを見越して手を入れました。
柳本さん:使い勝手がいいように考えながらやっています。
日本もインドも一杯一杯

5速MTのシフトレバー後方に副変速機レバーがあるのがジムニー一族の証

ノマドに追加されたリアのパワーウインドウスイッチは運転席からやや扱いにくい後方(写真左側)位置に。なお右側のスイッチはシートヒーター(写真:編集部)

フロントのパワーウインドウスイッチもドアにはなくインパネセンター下部にある
島﨑:使い勝手というワードを出していただいたのでひとつ気付いたことをお伝えすると、ノマドではドアが2枚増えましたが、運転席から操作できるそのパワーウインドゥのスイッチが、駐車ブレーキレバーの付け根よりさらに後ろにあって、運転手にとっては少し後ろ手で操作する感じになるなと感じましたけれど。
柳本さん:クライスラーのジープなどもそうですよね。そのあたりは市場の声をお聞きしながら反映していこうと思います。そこまでハーネスを持っていかないといけないこともありますし。
藤﨑さん:軽自動車とボディが一緒で、あれもこれもとやると、ウチの得意とする共通化がどんどん削がれていってしまう。だけど我慢のしどころがどこかを見つけながら、少しでも改善するならどこかということですごく参考になるご意見です。


島﨑:今後の供給体制はどのような見通しですか?
柳本さん:生産台数とか今後の仕様とか、そのあたりはお答えできないのですが……。
鈴木さん:今、お客様からオーダーをいただいている状況があるので、そこにお応えできる台数を準備していくというところです。すでに今、弊社は日本もインドも一杯一杯の中で回していまして、決してジムニー ノマドだけではないので、そういったバランスも持ちながら、いただいたオーダーになるべく早くお応えできるように手を入れていきます。
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カメラとセンサーを刷新してADASの機能を向上

*ここから柳本さんと鈴木さんに代わって志村さんと木方さんが登場
島﨑:今回の改良点のポイントと根拠はどこにあったのですか?まずADAS関係から……。
志村さん:カメラ、センサーを新しくして、ADASの機能全般を向上させています。1つ前のシステムから機能は増えていますけれど、そうすると製造コストや車両コストに影響が出てしまいます。そこで企画とも話し合い、今回のタイミングで入れる機能を決めました。
島﨑:今回はカメラとレーダーのデュアルセンサーに変わったのですね。
志村さん:はい、当然コストは上がっているのですが、今まで無かった機能として代表的なところでは車線逸脱機能があり、これは走行中に車両が車線からはみ出るような挙動になった時に、自動で少しハンドルをアシストして車線の中央に戻すものです。安全のための機能としてお客様にご満足いただければと思います。
島﨑:そのほかには?
志村さん:サイバーセキュリティ法規への対応も今回から入れました。
藤﨑さん:電子プラットフォームを変えないと載らない機能で、弊社はメチャクチャ先取りして入れる方ではないですが、先々のことを考えて入れるなら「今でしょ!」というのがありました。

2型の外観上の識別点がフロントバンパーに設置されたミリ波レーダー
島﨑:ADAS関係のスペックは仕向け地ごと共通なのですか?
志村さん:細かい部分で制御のパラメータの設定だとか、当然、国ごとの法規に合わせることがあり、それはやっています。
島﨑:足回りのセッティングとの兼ね合いもあるでしょうしね。志村さんのご担当車種はほかにもお持ちなのですか?
志村:ジムニー系のほか、メインとなっているのが軽自動車のハスラー、スペーシア、それとスイフトも見ています。
島﨑:とても大事な機能のご担当ですよね。
志村さん:ADASといっても機能が多いので、先ほどお話をした車線逸脱抑制機能だけでなく、自動ブレーキとかアダプティブクルーズコントロールとか分野が広く、担当もそれぞれ分かれていたりします。
島﨑:ADASの開発の中には、新機能の開発も含まれるのですよね。
志村さん:今回は自転車やバイクも認知できるようになりました。
法規対応で変更したタイヤのおかげで乗り心地も改善

島﨑:木方さんのご担当では、開発でどんなお話がありましたか?
木方さん:今回1型から2型になって、車外騒音の法規に対応しようということで、まずタイヤを変えて車外騒音を改善しています。
島﨑:あ、NVHもご担当になるのですか? それでタイヤも?
木方さん:タイヤが変わると操安にも関係があるので見ています。今回は車外騒音を改善するためにトレッドパターンを変えて、溝を浅くしたり、横に入っているラグを小さくしたりしました。
島﨑:随分と繊細な乗用車的なサイプが入っていますよね。溝の深いタイヤに較べ見るからに音が立ちにくそうな……。
木方さん:ええ。ただ溝を浅くすると剛性が上がるため、乗り心地の面でアタリの硬さが出てきてしまいます。そのことを改善する必要からダンパーの減衰力も手を入れています。
島﨑:この新しいタイヤは2型のすべてが装着しているのでしょうか?
藤﨑さん:いえ、日本と、車外騒音の規制があるアジアの一部です。音から始まったことですが、音を消すための今回のタイヤの対応が操安にも影響があるということで、ダンパーチューニングも入れたことで、乗り心地もいい方向にもっていけました。
島﨑:当然、室内騒音にも有利な改良ということですよね。
藤﨑さん:室内音を下げる対応もしましたから。2型を出すにあたり、ファミリーや女性、お母さんたちが使う機会も増えてきて、いろいろな声を総合していきながら、大きく構造的に変えなくてもできそうなところからやりました。
このくらいがちょうどいいんじゃないか、という開発

島﨑:先ほどのパワーステアリングのアシスト量のお話もそうですね。
藤﨑さん:そうです。ただしそこはやり過ぎてジムニーの本質を失ってはいけない。あまりポップなSUVのようにクイックにしてしまうとジムニーではなくなってしまう。プロの道具というジムニーの頂点を守りながら、どこまでアジャストできるかということで、担当者が頑張ってくれました。
島﨑:まさに塩梅、サジ加減ですね。
藤﨑さん:うちの会社はよく「ちょうどいい」という言い方をするんです。会社のポリシーとしてちょうどいい開発。ただお客様の要望を100%満たそうと思うとお金がかかる。アレつけてコレつけて、ココの寸法を変えて……と。だけどお客様は高くなることは望んでいない。多少我慢してもらうことはあるかもしれないけれど、このくらいがちょうどいいんじゃないかと。何でもかんでも機能を付けるより、本当に使うところ、本当に使いやすいところに絞ってやっていこうというのが、ちょうどいい開発の考え方なんです。
島﨑:オフロードコースも試せましたが、ちょうどいいどころか、ボディ剛性はかなりシッカリしているのがよくわかりました。最近、腰が痛かったりと、ドライバーのほうのボディ剛性は少々心許ないのですが……。
藤﨑さん/志村さん/木方さん:…………。
木方さん:3ドアから5ドアになり長くなって剛性を確保しなければいけないということで、ラダーフレームにセンタークロスメンバーを1本追加して、捩じれないようにフレームの四角い断面の中にも補強を入れました。
藤﨑さん:NVのためにルーフにも補強というより静粛性のために1本ブレースを入れています。静かになれば疲れ方もぜんぜん違ってきます。

ベースとなった3ドアのシエラ
島﨑:思い出したのですが、3ドアのシエラも、街中での走りなどスポーティなコンパクトカーのようなスムースな身のこなしが気持ちいいですよね。
木方さん:シエラも先代から較べると、だいぶ剛性が上がっていて、コーナーでステアリングを切ると、あまり修正は要らずにスーッと曲がっていきます。
藤﨑さん:フレームの剛性と今回はダンパーにも手を入れて、そのマッチングがよくなっています。
木方さん:先ほどご説明しましたとおり、新しいタイヤはトレッド面が硬くなっているので“アタリの丸さ”を出すために、ダンパーの低速域、圧側の減衰力を少し上げて、タイヤを潰すイメージで丸みを出すようにしました。で、そこを上げるとタイヤが踏ん張ってくれるので直進安定性もよくなる。シッカリ感はありながらあまりボディが動かされないでフラットもある。そんな使い方です。
島﨑:ダンパーの減衰を使ってタイヤを潰して路面に押さえつける……は、ほほぉとササるお話ですね。
木方さん:乗り味の丸さが出て、多少ショックが強くなることもあるのですが、そのへんは“ちょうどいい”ところかな、と。
藤﨑さん:でも今回は足は固めたけれど、逆にアタリは柔らかく感じるよね。目論見どおりタイヤを押しつけて乗り味の丸み感が出せたということだよね。島﨑さんも、ぜひワンちゃんを乗せてお試しください(笑)。
島﨑:お気に止めていただき恐縮です(笑)。では早速、注文書を書いてきます……とはいきませんが、広報車貸し出しのウェイティング・リストに名前を入れておいていただき、シエラもご機嫌らしかったので、広くなった5ドアのノマドの後席でもしっかり乗せて試させます。どうもありがとうございました。

シエラのリアシートはご機嫌に過ごしたという“モータージャーナリスト犬”のシュンくん
(特記以外の写真:島﨑七生人)
※記事の内容は2026年7月時点の情報で制作しています。
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