その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。記念すべき第100回は、2026年7月16日に16年ぶりのフルモデルチェンジを果たした日産「エルグランド」(689万7000〜757万9000円)です。5月28日の先行受注開始から8月3日時点で8000台超のオーダーを集め、好調なスタートを切った元祖プレミアムミニバンについて、車両全般を担当した永田 大樹(ながた・だいき)さん、プロパイロットなどADASの開発を担当した有田 樹生(ありた・たつき)さん、ブレーキシステム担当の山本 淳(やまもと・じゅん)さん、合わせて3名の日産自動車開発者にお話を伺いました。
120km/h巡航でも、1列目と3列目で会話ができる

島﨑:この試乗会への“参戦”は、きょうで何日目になりますか?
永田さん:初日から継続して4日目です。
有田さん/山本さん:私たちはきょうが初めてです。
島﨑:ああ、そうですか。それではまだヨソのインタビューでお話になっていないことをぜひお聞かせください。
永田さん/有田さん/山本さん:はははは。
島﨑:今、試乗してきましたが、いいクルマですね。撮影時間も含めて、あまりノンビリとはしてこられなかったのですが、快適で安心して走れるミニバンだと素直に感じました。とくに“音・振”のレベルは相当に低いですね。

カスタマーパフォーマンス&車両性能技術開発本部 カスタマーパフォーマンス&第一車両実験部 商品性&実験統括グループ 主担の永田 大樹(ながた・だいき)さん
永田さん:ありがとうございます。音・振はとにかくよくしたかったので、穴という穴をすべて塞ぎました。それと遮音材、吸音材、さらにアクティブ・ノイズ・コントローラーなど、いろいろなアイテムを使いました。
島﨑:走行中の車内にいると、フカフカのイヤーパッド付きのヘッドフォンをして外界から遮断された時のような静けさですね。
永田さん:遮音ガラスも標準で採用していますし……。

島﨑:それはどことどこですか?
永田さん:フロントガラスと1列目、2列目席まで使っています。
島﨑:走行中に運転していて後ろから入ってくるようなノイズも気にならないというか、なさそうですよね。
永田さん:ないですね。高速道路の120km/h巡航でも、1列目と3列目の方が声を張らずに会話ができるくらい、静粛性には取り組みました。
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オーディオで異なるANCのチューニング

島﨑:思い出しました。昔、セレナでしたか、マイクとスピーカーが付いてたことがありましたね。あの時は、3列目に座り、病院の待合で「受付番号245番の方、診察室9番にお入りください」と呼び出されるみたいにスピーカーからドライバーの声が聞こえました。
永田さん:もう要らないですね。
島﨑:タイヤの音は何かチューニングされたりしたのですか? 試乗車はヨコハマ・アドバンV61でしたけど。
永田さん:タイヤはロードノイズとか車外騒音は取り組みましたが、あとはANC(=アクティブ・ノイズ・コントロール)でロードノイズを消すようにしています。

島﨑:そうかそうか、ANCは常に効いているのですか?
永田さん:そうですね。
島﨑:まったく意識せずに試乗してきましたが、なるほど一種異様な静けさに感じるのはそういうことなんですね。
永田さん:オーディオがBOSEとパナソニックの2仕様あるのですが、それぞれチューニングしています。
走り出してから止まるまでスムーズに動かしたい

島﨑:永田さんのご担当の範囲といいますと結構、広範囲でしょうか?
永田さん:担当の範囲はもうクルマ全部です。
島﨑:短い時間ですけれど試乗して感じたのは、漠然とした言い方ですけど、すべてのことがスムースで、その世界観を壊すような要素がほぼないなと。ほかでもないのですが、T社A/V車をどのくらい凌駕したとお考えですか? “お話にならないくらい”とか?
永田さん:それは私の口からは言えませんが(笑)。
島﨑:承知しました。記事上では僕が言ったことにしておきます。

永田さん:とにかくこのクルマは走り出してから止まるまで新幹線のようにスムーズに動かしたいというのがありました。まず静かな空間を作って、走り出しても路面の入力を受けないような乗り心地、止まる時にもスムーズにするというのは気にしてやってきたことでした。
島﨑:このプラットフォームで今1度、ゆったりとしたセダンなどあってもいいですねえ。ホイールベースは従来型と同じですが……。
永田さん:新しいプラットフォームと考えていただいて大丈夫です。
ハンズオフでデスクワーク8時間分の疲労軽減

島﨑:有田さんのご担当は?
有田さん:私はADAS関係です。
島﨑:おお、プロパイロットも今回また進化しているのですね。
有田さん:はい。ポイントとしてはプロパイロットを使った時の疲労感が低減していますよということと、熟練ドライバーのようなADAS、オートドライブ機能になっていますよということです。
島﨑:なるほど。

電子技術・システム技術開発本部 AD/ADAS&シャシー制御開発部 プロジェクト開発グループの有田 樹生(ありた・たつき)さん
有田さん:今までは“ハンズオフができますよ”というところを日産を含めて売りにしていましたが、今回はハンズオフにした結果、人間の上半身の疲れが減っていますよということと、疲労度合の計測も行なって……。
島﨑:改めて実証を行なったんですね。
有田さん:ええ。その結果、一般的な運転とプロパイロット2.0を使った運転とでは、ドライバーの上半身の筋活動が60%軽減することがわかりました。同様に自律神経の変調に影響を及ぼす疲労、ストレス度でいうと、自分で運転した時とプロパイロット2.0に任せた時とでは、デスクワーク8時間分くらいの疲労の差が出ることがわかりました。
島﨑:ははぁ、だったら僕もプロパイロット2.0を使って原稿を書けばいいのかぁ、と。ちょっと主旨と目的が違いますけど。


有田さん:あはは。で、なぜ疲労が溜まるのかというと、人間の腕は体重の1割ほどあってそれを支えている訳ですが、走行中のハンドルを持った状態の腕の揺れとクルマの揺れが共振してしまうのですが、それを人は無意識に堪えようとし、どうしても力が入って、肩が凝って疲れに繋がります。そこでクルマに任せていただくことで人の疲労感が軽減するというところを、島﨑さんも機会があればぜひご体感ください。
島﨑:恐れ入ります。今回は撮影など細々なことをこなすのが精一杯で、ご案内のあった試乗コースで高速道路まで足を伸ばせませんでした。でもなるほど、170km走ってもデスクワーク8時間分の疲労軽減、僕も実体験しておきたいですね。いずれにしてもハンズオフのそういった基礎研究は、このエルグランドに限らずやってこられたのですね。
有田さん:ハンズオフの精度を上げるためにAI技術が入っていたりもしながら、たとえばこれまでのリーフなどにも入っていますが、そこから得られたデータをもとにし、新型エルグランドではさらに進化させています。
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日産は人を科学する

島﨑:同乗者がスマホを使っていても頭が揺れない……そんなプレゼンのボードを拝見しましたが、あれはどういうことですか?
山本さん:あれはインテリジェントダイナミックサスペンションの話ですね。人を科学しましょうというところから入ったアプローチを、最近の日産はどの分野でも力を入れています。自動運転のところでも人が疲れないドライビング、安心するドライビングは何だろう? 通常運転している時の乗り心地に対しても、人がリラックスできるのはどういう時なんだろう?としっかり科学した上で、それに対処する技術として、電子制御ダンパーを入れたりしています。
島﨑:山本さんがご担当のブレーキもそうなんですね。
山本さん:はい。ブレーキでいうと、乗り心地を重視したいクルマということで、“一貫したペースで最後に停止できること”にこだわりました。e-4ORCEでいうと減速する時にまずアクセルを離します、すると回生などでエンジンブレーキがかかったようになる。その時に車両姿勢が変わってしまうので、それをフロントとリアのモーターの回生トルクを制御し、よりリア側に回生をまわすことで、リア側から引っ張ってくれるようにピッチング挙動が抑えられるようにしてあります。
島﨑:ああ、なるほど。

車両計画・車両要素技術開発本部 シャシー開発部 ブレーキシステム開発グループ 主担の山本 淳(やまもと・じゅん)さん
山本さん:それでフラットな姿勢で減速していきますが、最後の最後でドライバーがブレーキを踏んで停止する時にカックンとなってしまっては台無しですよね。なのでアクセルを離して減速中もフラット、最後の止まる時もユサユサしないように止まれるというのがスムースストップなんです。
島﨑:制御は微妙そうですね。
山本さん:実際のドライバーでも力量によって変わる部分でもあるので、最後の最後に車速がゼロになる変曲点のところを、滑らかに車速を繋ぐことでスーッと止まる。これも新幹線のようにスーッと止まるような演出にしているんです。
島﨑:そういうセンスの裏付けがあるんですね。
違和感のなさにこだわった

山本さん:我々エンジニアはクルマのコンセプトはクリアに理解して開発してきましたので、どの技術領域でもしっかり性能を高めていこうとクルマのコンセプトに合うように仕上げてきました。
島﨑:これでOKということもないでしょうし。
山本さん:そうなんですよ。下手するとクルマ全体の制御でチグハグになりかねない。ダイレクションを決めて、そこに向かって技術者の思いを入れながら作り込むことが大事です。ちなみに試乗してどうでしたか?
島﨑:ご説明をお聞きしたから言う訳ではないのですが、まったく違和感がなかったです。僕は左足ブレーキも使ったりするのですが、それでも気持ちよくクルマが止まってくれました。
山本さん:ありがとうございます! 今言っていただいた“違和感がなかった”というのはまさにこだわったところでした。今どきネットでもいろいろなご意見がありますし。
島﨑:ああ。
山本さん:お客様の意図に対して、反する、邪魔する、お節介になっているところは絶対になくそう……というのがまずありました。そのためにドライバーの意図をちゃんと反映するロジック構成にしています。ドライバーの方の中には踏み増しをしたり、抜いたりもするだろうし、急ブレーキを踏むといったことも。そうしたこともちゃんと反映した上でスムースに止めたかったので……1番の褒め言葉をいただき、どうもありがとうございました。

島﨑:いつの間にエルグランドにこんな素晴らしい技術が投入されていたんだろう……なんて言ったら、超上から目線のコメントになってしまいますが……。
山本さん:ちゃんと仕込んでますから(笑)。
島﨑:何よりです。今度、厚木の皆さんのお仕事場へコッソリと覗きに行ってもいいですか?
山本さん/永田さん/有田さん:あははは。
(写真:島﨑七生人)
※記事の内容は2026年9月時点の情報で制作しています。
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