2026年7月28日、BYDオートジャパン株式会社は、軽自動車の電気自動車(以下BEV)の「ラッコ」を214万5000円~249万7000円で販売開始しました。エントリーグレードのラッコ200であれば15万円のCEV補助金を利用すると200万円を切り、ガソリン車の軽スーパーハイトワゴンと同じ価格帯になります。話題騒然のラッコは、軽自動車市場に送り込まれた中国からの刺客なのか、それとも黒船か?プレス向けの試乗会に参加し、BYD関係者へのインタビューも行った萩原文博さんのレポートです。
SNS上で賛否両論、話題沸騰!

BYDラッコの販売開始とともに、SNSでは賛否両論が入り乱れています。これだけクルマが話題になるということは最近では珍しく、軽BEVのラッコの注目度の高さを表しています。軽BEVのラッコは7月に発表され、わずか2週間で累計受注1000台を突破しています。SNSでの評判はともかくとして、素晴らしい滑り出しとなりました。
わずか2年で市販にこぎつけたのは凄い!

BYDは2022年に日本市場にBEVを導入すると発表し、2023年1月に第1弾モデルの 「ATTO 3」を日本市場に投入しました。筆者は、第3弾モデルとなった「シール」が発売される前の2023年10月にBYDに招待され、中国の深圳にある本社工場やシールのプロトタイプのサーキット試乗会に参加しました。
深圳の本社工場では見学に加えて、中国国内などですでに導入されているモデルの試乗も経験しました。その際には、「シーガル」と呼ばれる中国国内では100万円台で販売されているヤリスクラスのコンパクトカーもあり、そのうちこのモデルも日本市場に導入されると話題になるのではと考えていました。

実はこのラッコの開発期間はわずか2年で市販化を実現しています。つまり、私が深圳の本社工場に行った時にはこのラッコの生産計画はなかったのです。BYD会長兼CEOである王総統が、2023年に開催されたジャパンモビリティショーで来日された際に、街を走る軽自動車を見て、開発を決定したと言われています。

実際、BYD関係者にこの点について尋ねると「シーガルは価格の安いコンパクトカーです。このモデルを日本市場に導入すると安さをウリにするブランドと思われてしまいます。だったら同じ価格帯で高級な軽自動車を導入しようということになったのです。」と話してくれました。
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ホンダN-BOXを徹底的に研究

こちらはご存知・日本代表のN-BOX(カスタム)

ラッコのサイドビューは(タント+ルークス)÷2?

N-BOXの影響を最も感じるリアシート跳ね上げ機構
軽BEVの開発が始まると、すぐに軽自動車のベストセラーモデルであるホンダ「N-BOX」を研究したそうです。その研究結果はラッコで表現されています。リアのシートアレンジは明らかにN-BOXとの類似点ですし、助手席下の小物入れはスズキ「スペーシア」からヒントを得たと言えます。また外観デザインはダイハツ「タント」に似ているという意見が多いようです。つまり、ラッコは軽スーパーハイトワゴンの人気モデルの良いと思われるところを凝縮したモデルと言えるでしょう。


助手席下のトレイはスペーシアの影響か?ラッコは後席側からも出し入れ可能
これまで、軽自動車に海外のメーカーが参入しようとしましたが、成功には至りませんでした。日本独自のボディサイズと660ccの小排気量のエンジンを作ることなど非常にハードルが高かったからです。しかし、BEVならばそのハードルはグッと下がります。クルマの骨格であるプラットフォームも専用設計にする必要もなく、660ccのエンジンも作る必要がないからです。そうした背景もありBYDは軽自動車の売れ筋となっているスーパーハイトワゴンのラッコを開発したのです。
革新的な統合型の電気自動車技術「X-PACK」






ラッコのシャシー、ボディ、駆動・制御システムなどすべて新設計で、クルマの基本骨格となる新設計のシャシーは、2024年から投入されているEV専用プラットフォーム「e-プラットフォーム3.0」をベースに、バッテリーを祖業とするBYDの安心・安全な「リン酸鉄リチウムイオンバッテリー」を使用した駆動用バッテリーを、車体構造の一部として組み込む「CTB(セル・トゥ・ボディ」技術という独自の設計手法を採用しています。







さらにシャシーには約70%の高強度鋼板をしたことに加え、ルーフサイドとサイドパネルは従来のスポット溶接ではなく、高級車に使われるレーザー溶接によりシームレスにつなぎ合わせることで高いボディ剛性を獲得。優れた走行性能、高い静粛性、そして安全性能を実現しています。





ボディサイズに制約があり、一般的にエンジンを搭載した軽自動車では安全性、居住空間、そしてBEVで注目される航続距離を高次元で実現することが困難です。そこでBYDは、ラッコのために革新的な統合型の電気自動車技術である「X-PACK」を開発しました。


この「X-PACK」は、BYDが得意とするリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを用いたブレードバッテリーとCTB技術の統合方法を刷新した画期的な技術です。本来、エンジンルームにレイアウトされる駆動用バッテリー、電子制御ユニット、高電圧配電ユニット、バッテリーコントローラー、暖房用のPTCヒーター、冷房用のエアコンコンプレッサーの作動を制御する電子制御ユニットなどをバッテリーユニット内統合することで、事故などの際にボンネット下のスペースと乗員空間を受ける衝撃エネルギーを吸収する広いスペースを確保しています。
200と300で充電性能も異なる

またラッコに搭載されているブレードバッテリーは、1000ジュールの衝撃試験でも、バッテリーの温度の上昇することがないそうです。全領域の熱マネージメントシステムとの組み合わせにより冬季でも安定した航続距離を維持することができます。

バッテリー容量はエントリーグレードのラッコ 200が22.4kWh。WLTCモード満充電時の走行可能距離は約210km。一方の上級グレードとなるラッコ 300のバッテリー容量は35.8kWhで走行可能距離は約320kmとなっています。搭載しているバッテリー容量によって充電性能も異なっていて、ラッコ 200は普通充電が3kWh、急速充電は35.8kWhに対応。対してラッコ300は、普通充電は6kWh、急速充電は49.7kWに対応しています。
国産のスライドドア付き軽EVと比べると価格の安さが際立つ

N-BOXベースの商用車・N-VANのBEV版がN-VAN e
同じ軽BEVでリアにスライドドアを採用しているホンダN-VAN eとダイハツe アトレーと比較すると、ボディサイズでは全長と全幅は3モデルとも同じですが、全高は1960mmとN-VAN eが最も高く、次いで1890mmのe アトレー、ラッコ300が1800mmと最も低くなっています。車両重量はe アトレーが1300kgと最も重く、ラッコ300が1230kgそしてN-VAN eが1140kgです。搭載しているバッテリー容量は36.6kWhでe アトレーが最も多く、次いでラッコ300の35.84kWh。そしてN-VAN eの29.6kWhなので、バッテリー容量が多いほど車量重量が重くなることがわかります。
気になる航続走行距離はラッコ300が320kmで最も長く、N-VAN eが295km、そしてe アトレーが257kmです。ラッコ300とN-VAN eが前輪駆動なのに対して、e アトレーが後輪駆動というのも影響しているのかも知れません。

ダイハツe-ハイゼット カーゴ(左)とe-アトレーはスズキやトヨタとの共同開発だ(写真:ダイハツ)
充電性能は3モデルともに普通充電6kW、急速充電50kWで互角です。そしてSNSなどで話題となっている最低地上高ですが、N-VAN eは165mmですが、ラッコ300とe アトレーは130mmとなっており、ラッコが特に低いということはありません。
そして装着しているタイヤですが、N-VAN eとe アトレーは軽商用車なので、N-VAN eが145/80R13、e アトレーは145/80R12です。対してラッコ300は165/65R15。タイヤ剛性も高く走行安定性ではダントツと言えるでしょう。現在のところリアにスライドドアを採用した軽BEVとしてラッコは抜群のスペックです。
車両本体価格はラッコ300が249万7000円に対してN-VAN e:FUNが291万9400円。そしてeアトレーRSは346万5000円と約50万~約100万円高です。これはBEVの価格の4割を占めるバッテリーがBYDの自社生産という効果が大きいのは間違いありません。

軽ターボ+αの加速感はメーカーの配慮

それでは、インプレッションを紹介しましょう。今回は街乗りのみで50km程度しか走行していません。したがって運転支援機能や充電性能は触れることができないことはご承知ください。


ガソリンの軽自動車からの乗り替えをメインターゲットとしているだけあって、試乗に来たユーザーが戸惑わないようなユーザーインターフェイスを採用しています。シフトノブの位置やエアコンの操作パネルなどは初めて乗る人でも直感的に操作することができます。個人的にはドルフィンや ATTO 3でも同じなのですが、メーターパネルが小さいわりに表示する内容が多いというのが変わっていないのは少々残念なポイントです。


アクセルペダルを踏んで加速すると、BEVらしく静かにスムーズに加速していきます。ただしBEVらしい圧倒的なトルクによるパワフルな加速ではなく、軽ターボ+αといった程度。またアクセルを踏み続けていても法定速度を超えると加速が緩やかになります。
これもガソリン車から乗り替えたユーザーに違和感を感じさせないという配慮による制御でしょう。思っている以上に加速をすると、怖いと感じるユーザーもいるかもしれません。そういった人が怖いと感じずにあくまでもスムーズに気持ち良く加速するようにしています。したがってBEVに乗っている人などは思ったより加速しないと感じるかもしれません。
課題が残る乗り心地、軽スーパーハイトの経験の浅さゆえか

メーカーの意図を感じる加速性能の味付けに比べると、乗り心地の点はやはり初めて軽自動車規格のクルマを作ったという「経験の浅さ」が表れています。車幅がない上、車高が高いためリアサスペンションで安定感を出そうとして、硬めのセッティングとなっています。

きれいな路面ならば、わからないのですが、ちょっと荒れた路面を走行すると、収束が悪く、落ち着きのない状態になることがありました。日本では見慣れないブランドのタイヤもロードノイズや揺れの収束の点で不利に働いていると感じました。

しなやかなN-BOXカスタムの足回り
直前にマイナーチェンジしたN-BOXカスタムに試乗していましたが、N-BOXカスタムはリアサスペンションがしっかりと仕事してくれるので、不安定になるシーンはありませんでした。N-BOXカスタムに乗った当初はややソフトな味付けだと感じましたが、乗り込んでいくうちにロールを抑えつつ、乗員に不安を与えないセッティングなのだと気づかされました。
まだN-BOXには追いついていないが……

N-BOXは軽自動車でいち早く運転支援システムを標準装備化しましたし、安全面でもJNCAPでファイブスターに輝く実力をもっています。N-BOXを徹底的に研究したというラッコも運転支援システムは標準装備していますし、衝突安全もしっかり行っていると思います。使い勝手や装備品については日本車を非常によく研究しており、国産スーパーハイトワゴンユーザーが不便を感じることは、EVであること以外にまずないでしょう。

N-BOX、いや日本車にとって研究熱心なBYDの開発スピードは脅威だ
ただ、足回りの乗り心地や操縦安定性といった部分でもベストセラーモデルのN-BOXを模範としてもらいたいですし、まだまだ物足りない部分です。この点はBYDが得意とする「スピード開発」で改善してほしいと思います。

(写真:萩原文博)
※記事の内容は2026年8月時点の情報で制作しています。
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