その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第97回は2026年5月21日に販売を開始したマツダ「CX-5」(330万円〜447万1500円)です。マツダのグローバル販売の1/4を占めるミドルサイズSUVのCX-5。その3代目モデルの開発背景とモデルチェンジのポイントについて、開発責任者であるマツダ株式会社 クルマ開発本部 CX-5主査の山口 浩一郎(やまぐち・こういちろう)さんに話を伺いました。
変える必要があるところだけとことん変えた

山口主査:試乗されていかがでしたか?
島﨑:いいですねえ。
山口主査:ありがとうございます。
島﨑:乗り味が非常になめらかというか。広島にお戻りになったら、今売っているマツダ車と、これから出てくるマツダ車の乗り味はすべてこれで統一してくださいとお願いしておきたいです。
山口主査:うわぁ、最大限の褒め言葉をいただきまして……。
島﨑:乗り心地でいうと、ここ最近のラージ系モデルの60とか80とか、僕は第一印象で好印象を持っていたのですが、その後いろいろな意見があって波乱万丈だった気もします。でも新型CX-5は、より順風満帆なライフが送れるんじゃないかなあという予感がします。漠然とした訊き方ですが、クルマの作り方、考え方自体、それまでとは違っている、あるいは変えたのですか?

5月21日の発表会に登壇した山口主査(写真:編集部)

発表会ではマツダのブランドアンバサダーに就任した綾瀬はるかさんも登場(写真:編集部)
山口主査:はい、仰るとおりです。今回はダイナミクス領域は“変えるところ”と“変えないところ”に分けて、変える必要があるところだけとことん変えて最大限の効果を効率的に引き出す開発に特化しました。
島﨑:ほほぉ、それは従来のCX-5に対してということですよね?
山口主査:従来のCX-5をベースにして、変えるところ、変えないところを厳密に考え尽くして。
島﨑:“厳密”“考え尽くして”。かなりの決意の程が伝わる言葉選びですね。
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一番こだわったのはダンパーの初期応答

山口主査:サスペンション系で言うと、形式ではなくて機能配分を考え直す、そこに特化しました。
島﨑:ダンパーとスプリングのお話ですね。
山口主査:そうです。まず一番大事な進化ポイントとして、ダンパーの初期応答にポイントを定めました。ダンパーの初期応答がよくなると、ステアリングの切り始めもダンパーがシッカリ受け持ってくれるため、スプリングを弱くできる。そうすると乗り心地がよくなりロールも自然になり……といい方向になる。逆にスプリングで固めてしまうと跳ね返りがあり、それを抑えるためにダンパー伸び側の減衰も効かさなければならない……そんな悪循環になってしまう。とくにSUV系は重心が高く、ロールを嫌うと硬くなってしまう。
島﨑:車重、荷重の配慮も必要ですしね。
山口主査:そうなんです。そこでそれらを断ち切るためにダンパーの初期応答に一番こだわりました。
島﨑:その考え方は、これまでの車種とはまったく違う考え方ということですか?
山口主査:ベーシックな一般的な考え方としては今までも言ってきました。ただしそれに手段系が付いてこなかった。
島﨑:手段系?
山口主査:初期応答を良くすればいいサイクルになることは分かっていました。でも手段系が伴っていなかったので、なかなかそこまで行けなかったんです。で、手段系の話をしますと、初期応答の手当てをすればいいということはイメージしたとして……。
島﨑:それをどう実現するか……。

山口主査:そのために今回やったのは大きく3つあり、1つはダンパーのバルブ構造の一新、2つ目はダンパーの径の拡大、3つ目は内圧を高めにし気泡を抑えるようにしました。
島﨑:なるほど、ダンパーの基本のところまで踏み込んだのですね。
山口主査:ただこれも難しくて、径も大きければいい、内圧も高ければいい……ではない。バランスといろいろなこととの相互関係で適正値というのがあります。なのでその適正値を如何に定めるかということで、新たな手法で、マツダのモデルベース開発という机上での計算によって設計値を決めるようなプロセスを、今回この領域で初めて入れました。
島﨑:実車での開発だけではなく?
山口主査:5年くらい研究開発をしてきており、一部入れたりはしてきましたが、全面的にモデルベース開発を入れたのはこのCX-5が初めてです。今回で言うとダンパーのバルブと適した径、圧力について、1万通りくらいを検証した上で最適値を決めたという訳です。
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マツダのモデルベース開発を元にしたダンパーとタイヤ

島﨑:効率的な開発におおいに貢献するということですね。ところでダンパーそのものはどちらのものですか?
山口主査:ZFです。ZFは今までも我々も使った経験があるのですが、今回はモデルベースで最適化した上で、スプリング、スタビライザーなどを含めて機能配分を適正化したというところがこれまで使いきっていなくて、そのプロセスができて適正値が求められた点が今回の開発の大きな特徴です。
島﨑:やはりモデルベース開発はかなり有効なんですね。
山口主査:はい。詳細な技術説明はエキスパートでなければ言うのが難しいですし、かなり機密の部分もありますので……。
広報:1万通りの計算を生で実際にやったらどれだけかかるか、です。
山口主査:たとえばダンパーメーカーも、ダンパーの中のオイルやガスの流れ方を全部解析してできるかというと、そうでもない。そうした部品内部も含めてマツダのモデルベース開発の知見を入れて一緒に開発してきました。ダンパーメーカーにお任せして持ってきたものの適正度を見るのではなくて、ダンパーメーカーの仕様までマツダが解析したものを指示して指定して、すべてのクルマのコンポーネントの中で適正化したものを入れる……そこまでこだわってのモデルベース開発ということでした。

島﨑:タイヤもBSのALENZAで“MA”の刻印がありましたから専用なんですね。きょうの試乗車には寿司屋じゃないですけど、26年製の活きのいいタイヤが付いていましたが。
山口主査:タイヤも重要なシャシーパーツですから、ブリヂストンさんと開発を一緒にやっています。一般に市販されている同じ銘柄、サイズをもってきても実は性能はちょっと違います。
最初がクラッではなくスーッといくフィーリング

島﨑:それにしても新型CX-5の乗り味ですが、走り始めからスムースで、フラットライドで煽られないし突き上げも感じない。たぶん我が家の犬に試乗させたら、走り出していきなり居眠りを始めるパターンだろうな、と。
山口主査:あはは。
島﨑:直近では先代のCX-5には昨年末に試乗しまして、乗り味もステアリングフィールも穏やかだしバランスのいいクルマだと思っていました。
山口主査:ありがとうございます。先代のCX-5もいいクルマでしたが、外乱が入ると少しコツコツしたり、ステアリングを切り始めたときに、実はほんのちょっとだけクラッとした上でダイヤゴナルロールを始める。あれって、実は犬が乗られる(笑)後席のほうがクラッとより感じるんです。それは絶対に直したいとこだわって、メンバーには最初から言っていました。最初がクラッではなくスーッといくフィーリングを作ってほしい、と。


島﨑:犬のことまでお気遣いいただき恐縮です(笑)。
山口主査:実は人間もすごく微妙なところを感じていて、グラーン!とオーバーな話じゃなくて、最初にクッときてから安定するそんなフィーリングが少しあって、私もそうですがドライバーはクッとくると一度身構えるんですね。で、安定してから自信をもって切り始める。そこをどうにかしたい、そこをよくすればまた1段よくなる……そう思って、最初の挙動をスムースに作ることにこだわりました。
島﨑:そうでしたか。
山口主査:加えていうと、フラットライドを目指したのですが、実はロールは結構するんです。でもロールの最初のところがフウーッと行くので、フラットに行っている感覚で、曲がれているんです。
島﨑:姿勢変化急激ではないがようにしてある。
山口主査:そうなんです。それがあれば人間も酔わないし、その……犬も酔わないのかなぁ、と。
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バンピーな下り坂でのフローティング感もなくした

写真:マツダ
島﨑:三次(みよし)のテストコースは今も使われているんですよね?
山口主査:三次で開発しています。
島﨑:かなり昔のことですが、あのワインディング路の、ベースに戻ってくる最後の連続した屈曲路を熱く走らせておられた開発のかたのお顔が大勢思い浮かびます。
山口主査:もう1個、調子に乗ってついでに言ってしまうと、先代で直したいと思ったのが、下り坂でややバンピーなところでオーバースピードで入ったときのフローティング感でした。
島﨑:ああ。
山口主査:仰った三次の外周路に下りでバンピーでカーブしているところがあるんです。先代も良路でしっかり接地していればスプリングが勝ち切って安心して曲がれるのですが、フワッと来るところで無駄な動きが入ってしまうと浮いた瞬間の不安感があった。そこで先ほどもお話したとおり、ダンパーの初期を効かせてスプリングのバネレートを下げることで追従性をよくしました。バネ自体の振動でボヨンボヨンとさせないようにした。そこは専門家に任せましたが、結果的にフローティングをなくしたことで不安感はぜんぜん違っています。
エンジンからの雑味のある音をとにかく抑えたかった

島﨑:実際のユーザーの方も、乗ればそのあたりがわかるでしょうね。そういえば新型は先代に輪をかけて走り出した時の音と振動がとても小さいですね。エンジンがかかっていないの?と錯覚するほどに。きっと音源とか遮音の対策も入念なんでしょうね。
山口主査:実はそこもこだわったポイントでして、まずエンジンからの雑味のある音をとにかく抑えたかった。そこでエンジンコンパートメントの後ろ側のインシュレーターについて徹底的に手を入れました。具体的にはフロントウインドゥの下あたりにあるエンジンルームインシュレーターの厚さをかなり奮発しまして……。
島﨑:記事するのはどうかと山口さんが気にされているので、僕が言ったことにしておきますと、工場のラインで作業の方が大変な思いをされるくらいのしっかりしたものを使ったというお話ですね。遮音と吸音の両方の効果を高めたエンジンルームインシュレーター。
山口主査:で、エンジンの雑味のある音をシャットアウトしながら、かつ音源対策として、リアまわりのフロア剛性だとか、インテリアパーツなども。加えて音の大きさだけでなく、いろいろな方向から来る音を均一にするとか、そういった全体をコントロールする考え方で今回、静粛性をやっています。
島﨑:とにかく室内の気配が静かですよね。ルーフライニングも何か?
山口主査:ルーフライニングも今回は材料をグレードアップさせました。
構造は一緒でも、考え方も狙いも変えた

写真:マツダ
島﨑:新アイテムがいろいろ投入されて、他機種の主査の方々の顔が浮かんできますが、2桁車名のラージ群を超えた出来栄えなのでは?
山口主査:ただし全部新しくしていい物を使えばいいクルマができる……ではなく、構造を理解した上でここだけをやれば劇的によくなると狙いを定めて、やっています。シャシーシステムを、サスペンション形式を全面的に変えてではなく、形式は従来の手の内化した知り尽くしたものでやりながら、足りなかったところ……ダンパーの初期応答など……をやろうとフォーカスした考え方で開発したのが今回のCX-5なんです。
島﨑:なるほど。
山口主査:今回も「全面変更じゃないのに、よくここまで変わったな」と言われる人が多いんです。ホイールベースもトレッドも変えていますから特性はぜんぜん違うのですが、構造は一緒でも、考え方も狙いも変えて、フルモデルチェンジに近い印象があるようです。中には「日本の自動車産業もこういうことをやっていけばいいんじゃないの?」と嬉しいお言葉をいただいたりして。
島﨑:やりきった感が伝わってきました。いろいろなお話をどうもありがとうございました。
(特記以外の写真:島﨑七生人)
※記事の内容は2026年5月時点の情報で制作しています。
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