その細やかな観察眼では業界一、二を争うモータージャーナリストの島﨑七生人さんが、話題のニューモデルの気になるポイントについて、深く、細かくインタビューする連載企画。第89回は2025年5月にマイナーチェンジを行ったトヨタ「カローラクロス」(276万円〜389万5000円)です。昨年グローバルで166万台が販売されたカローラシリーズの約半分を占めるカローラクロスの改良ポイントについて、トヨタ自動車株式会社 TC統括部 製品企画 ZE カローラクロス開発責任者・主査の髙橋 毅(たかはし・つよし)さんとカローラクロス企画担当・主幹の関 修司(せき・しゅうじ)さんに話を伺いました。
“アーバン・アクティブ”より“平凡・普通”?

広報部:まず試乗しての感想を……。
島﨑:はい。実は自分で確認したところ、前回カローラクロスの試乗をしたのは2021年の秋でした。つまり23年の改良型はスルーしていたのですね。なので果たしてどのぐらい変わっているのか?と神妙な面持ちで(笑)今回の改良モデルに試乗したのですが、いい意味で変わらない、期待を裏切らない商品性の高いクルマになっているなあと感じました。
広報部:ああ、そうでしたか。
島﨑:いただいた取材時間を無駄にしないよう、大急ぎで帰宅し、我が家の飼い犬も動員して試乗したのですが、居眠りしていたほどだったので、従来型がそうだったようにカレも「いいね」と感じたようです。ちなみに従来型にも先代犬が試乗しており、2021年のその時の記事を見返すと、やはり“快適そうに居眠りをしていた”とありました。
広報部:あははは。
島﨑:ところで手元にいただいたPDFの資料に“アーバン”という言葉が8回、“プレミアム”は5回とずいぶん頻繁に出て来るのですが、このあたりがやはり今回の改良の方針、ポイントになるのでしょうか?
髙橋さん:アーバンという言葉がよく出てきていることに関しては、カローラクロスを最初に出した時にも“アーバンアクティブ”ということで、シルエットも含めて、都会的な洗練された活動的なSUVのイメージを持たせていました。ただ一方でアーバンというイメージをお客様にはなかなか持っていただけてなかったのかなとは、市場からの声を含めて、我々開発陣の率直な感想でもありました。
島﨑:ほお、そうだったんですか。
髙橋さん:アーバン、アクティブというイメージより、カローラ、平凡、普通といったイメージのほうが強かったようで……。
島﨑:外連味(けれんみ)のない、いいスタイルの洗練されたクルマだと思っていましたが。
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こちらは六角形、レクサスに寄せたわけではない

髙橋さん:プレミアムという言葉を使った理由も、都会的な部分を感じさせる上で上質感や、若々しく躍動的な方向を付与、上乗せするために、アーバンプレミアムという言葉を掲げたほうが、開発に携わる全員の方向性ということでもわかりやすいということもありました。
島﨑:アーバンプレミアムは、カローラクロスのどういうところから感じ取ればいいですか?
髙橋さん:まずフロントフェイスですが、グリルをボディ同色にして一体感を持たせながら、グラデーションで変化させることでモダンさを表現しました。またグリルの上のセンターランプと呼んでいる光る部分も中に縦格子の幾何学的なスリットを入れてあり、都会的な洗練さ、精緻さを表現しています。
島﨑:グリルのパターンの開口部がエンボスに変わるグラデーションは最近のレクサスに寄せたのかな?とも思いましたが……。
髙橋さん:とくにレクサスに寄せた意図はなくて、グリルそのものの形状自体もレクサスの格子に対してこちらは六角形と違うところを目指しています。
島﨑:資料に、フードの先端を伸ばしたとありましたが?
髙橋さん:バンパー側でフードを受ける構造の先端形状が、従来より前方に伸びたようなデザインにしたということです。
島﨑:エンジンフードそのものは変わっていないんですか?
髙橋さん:長さ、形状は変わっていないです。
島﨑:今までのグリルは郵便受けのようなスリットと枠で構成されていましたが、先ほどお話のあった六角形のパターンで、よりボディと一体感のあるデザインに新しくなりましたね。インドネシア向けは、ひと足早くこの顔が採用になっていますね。
髙橋さん:はい。
島﨑:それと光るセンターランプが新規設定されたのと、ヘッドランプは輪郭は同じに見えますが?
髙橋さん:輪郭は同じで、Zグレードはデザインを変更しました。
都会でもカッコよく見えるシフトまわり

島﨑:一方で内装では、シフトレバーが備わるアイランド型のセンターパネルが、ずいぶん運転席まわりの雰囲気を上質なものに変えましたね。
髙橋さん:あ、ありがとうございます。お客様の声で、モノを置くスペースが不足しているという声があり、とくに今はスマートフォンを置きたいということで、並列に2台置けるようにしました。それと外観同様、都会でもカッコよく見え、高級、先進感、プレミアム感を意識しながらシフトまわりを変えました。
島﨑:艶ありのパネルと、線で発光するベージュのイルミは今どきのデザインですね。やはりこういう仕立てはユーザーに好まれるのですね。
髙橋さん:そうですね。この5月の改良のタイミングでまず日本から導入したデザインです。北米についても、発売は8月からですが、すでにこのデザインはオフィシャルになっています。そのほかの地域はご想像にお任せしますが……。

島﨑:順次ということですね。それとZグレードはフロントシートにベンチレーションとシートヒーターが標準なのは素晴らしいですね。シートヒーター、暑がりで寒がりのウチの家内など大喜びでしょう。もうひと息、ステアリングヒーターもオプションから標準に格上げさればなおいいですね。
髙橋さん:あ、わかりました。ステアリングヒーターはオプションではありますが、確かにまだ標準にはなっておりませんので。
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静粛性の向上にはウレタンだけでなく思いも詰まっている


島﨑:ほかに改良点として新規でマスシールを使ったり、静粛性もさらに手厚く配慮されたのですね。
髙橋さん:接着剤とリアのウレタンブロックはすべてのグレードでやっています。とくにウレタンブロックについては、後ろからのタイヤの透過音を優先度を上げて解決しようということでやりました。Aピラー内の吸音材はZグレードのみとなりますが、風切り音を含めこういったシルエットのクルマでは、よくしていきたいポイントでもあるので手当てしています。

島﨑:従来型もそれほど耳障りなノイズを感じるクルマではなかったように記憶していますが……。
髙橋さん:仰っていただいたように、もともとのモデルの商品性が劣っていたわけではなくお客様からすごく声が上がっていた訳ではなかったのですが、他社との競合性や、このクルマの将来とお客様に長く乗っていただくことを考えてレベルアップしておくべき……とこのタイミングで実施した、我々の思いが詰まっちゃっている部分です。
島﨑:ウレタンだけでなく思いも詰め込んだということですね(笑)。動力、運動性能に関してのお話も伺わせていただけますか。資料にはサスペンションの締結剛性アップなどとありましたが……。
サスペンションの締結剛性の向上で操舵フィールを改善

関さん:はい、23年モデルでアクスルベアリングの高剛性化を行ない、ステアリングから伝わってくるタイヤの接地感を向上させ、操舵のしやすさを、高剛性化によりわかりやすくさせました。この時、実はサスペンションのチューニングも最適化していました。その上で今回の25年モデルでは、サスペンションの組み付け時の締結トルクを上げることで締結剛性の向上を図りました。
島﨑:資料にもフロント、リアともにサスペンションのボディ取り付け部分などが示されていますが、ここの締結トルクをアップさせたということですね。
関さん:はい、実は今回、豊田市の高岡工場からトヨタ自動車東日本の岩手工場に生産を移管し、それに併せて、生産上のバラツキの変化を管理することで剛性を上げる取り組みを行なっています。こうした生産現場の工夫により、ステアリングを切った際の細かな操舵にも車体がついてくる操舵フィールが実現できました。

島﨑:走りのチューニングの部分でのお話はありますか?
関さん:乗り心地の観点では、たとえばフロントのロアアームの締結ですが、前側と同時に後ろ側もアップさせてしまうと乗り心地が悪化することが開発の中でわかりました。カローラクロスは乗り心地最優先なので、操舵フィールと乗り心地の確保のバランスをとりながらやっています。
島﨑:タイヤサイズや指定の空気圧は変わっていないですよね?
関さん:当初から変えていません。
島﨑:印象として乗り味は相変わらずクラスを超えた上質感、安定感ですし、ステアリングを切って戻す操舵感が自然でシッカリとしている点は、僕は好きなタイプです。
関さん:ありがとうございます。23年のアクスルベアリングを変えた段階でチューニングを見直し、その効果で乗り心地と操舵フィールを両立させながら一段上がったものですから、その上で今回は締結剛性を上げたことで精緻なハンドリングと全体の質感が向上したことが、今回の大きな変化になっています。
すべてのシーンでフルタイム4WDとしてリアモーターを駆動

23年のリアモーター強化に続き今回のSNOW EXTRAモード採用で生活四駆の域を超えた4WDモデル(写真:トヨタ)
島﨑:E-Fourと2WDとではチューニング上の方向性の違いなどはありますか?
関さん:同じクルマ、同じ狙い、乗り心地のファミリーカーとして基本は同じです。ただリアサスペンションは、ダブルウイッシュボーンとトーションビームとでは特性の違いがあるものですから、アブソーバー、結合剛性の部分はわけてポイントを絞って手当てしています。
島﨑:走行モードでSNOW EXTRAが今回、新設定されましたね。
髙橋さん:冬場で作動させて車体を安定するシステムを入れております。従来4WDとして機能していたのは発進時は4輪で力強く、後輪もフルパワー、旋回の後半でアクセルを踏んだ時にスリップしないようにリアにシッカリ駆動を回すというもので、それ以外のシーンは燃費優先で基本的にはリア駆動をしないものでした。今回のSNOW EXTRAではレーンチェンジやアクセルオフ時など、すべてのシーンでフルタイム4WDとしてリアモーターを駆動させて安定性を確保していくというシステムです。
島﨑:他のモードで走らせている時でも、発進やコーナーの出口でやや性急な加速を試してみるとリアにも駆動が入りますね。
髙橋さん:実は23年の改良でリアモーターの出力をそれまでの5kWから30kW、6倍、約40psぐらいのかなり高出力のモーターに変えました。なので確かに21年に出た時のモデルよりも出力はジャンプアップしています。
島﨑:より運転しやすくなりましたね。もし人から2WDと4WDならどちらを買ったほうがいい?と訊かれたら4WDがいいんじゃない、と答えたくなるような……。
髙橋さん:ただ2WDも軽量であることや荷物の積載容量、燃費にアドバンテージがありますので、お客様の嗜好により選んでいただけたらと思っております。
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ひとつ上のちょっと先の装備を付けることを大事に

島﨑:そうそう、それと日本初のSRP(シグナルロードプロジェクション)はなかなかユニークなアイテムというか機能ですね。これはどういうレギュレーションに抵触させずに実現できたものなのですか?
髙橋さん:法規で決まっており、昼間では見えない、夜だけしっかりと矢印が出る照度になっています。さらに高機能なものでは実現できないことも想定されたので、まずはなるべく多くのクルマに入れられ、少しでも安全に貢献できるのであればと入れました。機能としては物陰や暗がりからクルマが出てくる時に、クルマが向かってくることが少しでも伝わればと。最近ではスマホを見ながら下を向いてる歩行者も多いので、クルマの接近を伝えるのにいいのかなとも考えました。
島﨑:構造はどうなっているのですか?
髙橋さん:ウインカーのちょうど下に小さな穴があり、そこからひとつのLEDで照射しています。矢印のパターンは非球面レンズの中に彫ってあります。作動はウインカーに連動させています。
島﨑:話が戻るのですが、今回の改良の内容の中で、今までのユーザーから何かコンプレインがあってその手当てをしたというようなことはあったのですか?
髙橋さん:実はコンプレインというほどの大きなものはありませんでした。先ほどお話した内装や収納スペースに関しての声は上がっていました。アーバンプレミアムということでいうとカローラクロスのポジション、競合に対しての優位性をさらに1段高めようということ、シートベンチレーションなど時代に合わせた進化といったこと。それともともとオプションだったものの標準化にも注力しまして、今回Zグレードは販売価格が上がっていますが、カローラはアフォーダブルで買いやすい、良品廉価なクルマとして開発陣と議論を進めて開発したクルマとなっています。
広報部:昨年2024年の例でいうと、カローラクロスの販売台数はグローバルでおよそ87万台で、166万台のカローラシリーズ全体のおよそ半数を占める規模感です。「地球人の幸福と福祉のために」とは初代カローラの開発責任者だった長谷川龍雄の言葉ですが、そこを原点、哲学にしてきまして……。
髙橋さん:すべてのお客様の幸せに繋がるように、その基本として良品廉価、変化、プラスアルファの3つを大事にしてきました。普及して生活を支え笑顔を創出するのが良品廉価、時代の変化やご要望に応え続けるのが変化、そしてプラスアルファについては手の届く憧れということで、ひとつ上のちょっと先の装備を付けるといったことを大事にしています。もちろん今回の改良にもこうした考え方は入っています。
島﨑:今まで、たとえばベースのセダンに対してプラスアルファの位置づけとしてSUVのカローラクロスと捉えていたのですが、そうではなく……。
髙橋さん:そうではなく、たとえば今回追加したシグナルロードプロジェクションやスノーエクストラモードなどはトヨタ初であり、プラスアルファの機能であり、今まではなかったちょっと先をお客様に感じていただける機能になっています。
広報部:初代カローラはコラムシフトの時代にスポーティなフロアシフトを設定しましたが、それと同じなんですね。クルマとしてのベースがあり、さらにお客様にワクワクしていただけるようなことをやりましょう……というのが代々あり、今もそうした思いが開発陣の中にはあるということなんです。
駐車場は簡単に変えられない

島﨑:それと同時に、輸入車などから乗りかえると、カローラクロスの全幅1825mmは、それを意識させない馴染みやすさだなぁと感じますね。
髙橋さん:ありがとうございます。実はこのカローラクロスを出す時にボディサイズをいろいろ議論しました。全幅1825mmは大きい印象を与えてしまうんじゃないか、とも。けれど運転しやすいと感じていただけるのは最小回転半径を5.2mとし、小回りの利くパッケージとしているからです。そうしたことで、クルマとしての使いやすさがお客様にもお伝えできているんじゃないかなと考えています。全長については4.5mを切る4460mmとしていますが、これはいろいろな荷物が載せられ家族4人がしっかり乗れるところということで大事にしているポイントです。
島﨑:GA-KプラットフォームのRAV4やハリアーに対して、GA-Cプラットフォームのカローラクロスは、このサイズを守るべきである、と。
髙橋さん:全幅で言うと1850mmを超えると立体駐車場で入らないところが多々あるという話もあり、使いやすさのためにもボディサイズは管理していかなければならないポイントだと考えています。カローラクロスは現状で100点満点ではないと考えていますが、少なくとも不便にしていくような進化はお客様は望んでいないだろうと。「駐車場は簡単に変えられないんです」というお客様の声は、しっかり認識していきたいと思います。
島﨑:現状で100点ではないと髙橋さんは謙遜なさいましたが、改良型カローラクロスに改めて試乗して素直に感じたのは、相変わらず期待以上の上質感が実感でき、バランスのいいクルマだなぁということでした。今回はE-Fourを1泊での試乗でしたが、もう少しジックリと試して、さらに2WDとの乗り味の違いも確かめておきたいと思った次第です。どうもありがとうございました。
(特記以外の写真:島崎七生人)
※記事の内容は2025年8月時点の情報で制作しています。
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