日本のオンライン中古車輸出業界のパイオニアであり、現在はUCARWORLDの代表を務める茶谷信明さんが語る輸出業界の裏事情の連載。その第1回はドバイに日本の中古車が集まっている、という話です。「なんでわざわざドバイに?」という疑問、ちゃんと答えられる人は意外と少なく、茶谷さんも最初はそうでした。中古車輸出会社入社1年目のある夜、深夜23時に電話が鳴ってドバイのバイヤーから「Jebel Aliに送ってくれ」と伝えられました。その瞬間まで「ジェベル・アリ?なんだそれ」って状態だった茶谷さん。そこから少しずつ見えてきたドバイと日本の中古車の話とは?
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ドバイに着いた車の多くは、また船に乗る
まず最初に言っておきたいのですが、ドバイに集まった日本の中古車の多くは、ドバイで乗られるわけじゃないんです。「ドバイで売るためにドバイに送る」は半分正解で、半分間違い。正確には「ドバイを経由して、アフリカや中東やアジアに売る」というのが実態に近い。
日本から輸出された中古車は、ドバイの港に着いてから再びコンテナに積まれて、ナイジェリア、タンザニア、モザンビーク、ウガンダ、パキスタン、アフガニスタンといった国々へ向かっていきます。これを「再輸出」と呼ぶんですが、ドバイはその中継地点として機能している。
ある時、バイヤーに「このまえ売ったプロボックス、その後どうなりましたか?」とセールスの電話をしたら、こう返ってきました。
「俺は乗ってないよ。今頃タンザニアにいるんじゃないか」
笑い話のようですが、これがドバイの中古車ビジネスの本質をよく表しています。バイヤーは車を「使うため」に買うんじゃなくて、「次に売るため」に買っている。ドバイはその流通の拠点なんです。
ジェベル・アリ港は中東最大どころか世界有数の規模

ドバイのJebel Ali(ジェベル・アリ)港
ドバイの場所を地図で確認してみると、なるほどと思います。アラビア半島の東側、ペルシャ湾に面した位置にあって、ヨーロッパ・アジア・アフリカの三方向への距離がほぼ均等に近い。東アフリカへの海路、南アジアへのルート、中央アジアへの陸路。どの方向にも出やすい場所にある。これは偶然じゃなくて、だからこそドバイが貿易の街として発展してきた歴史的な理由でもあります。
立地だけじゃなくて、ドバイがハブになった理由にはインフラと制度の話が欠かせません。冒頭に出てきた「Jebel Ali(ジェベル・アリ)」、これは港の名前です。ドバイ市内から南西に約35kmのところにある港で、中東最大、世界でもトップクラスの規模を誇るコンテナ港。取扱量は年間約1,500万TEU(コンテナの単位)にのぼります。
最初に名前を聞いた時は「なんか強そうな名前だな」くらいしか思いませんでしたが、実態を知るとその規模に驚きます。これだけの物流インフラがあるから、世界中から荷物が集まるし、世界中に送り出せる。
ジェベル・アリ港を使った物流の実際と、海峡で何かあったときに在庫がどう動くのかは、UCARWORLD.BIZの中東情勢と海上輸送|中古車輸出への影響と在庫の動かし方で、実務の目線から整理しています。
「税金がほぼかからない場所」に集まる世界中の中古車バイヤー
ドバイには「フリーゾーン(自由貿易地域)」という制度があって、この区域内では関税がゼロ、法人税も免除される仕組みになっています。普通、輸入した車には関税がかかります。でもフリーゾーン内ならその負担がない。「保管して、また別の国に送り出す」という再輸出ビジネスとの相性が抜群にいいんです。コスト面で有利だから業者が集まる、業者が集まるからさらにビジネスが活発になる。このサイクルがドバイを中古車ハブにした大きな理由のひとつです。
「ドバイ・オート・ゾーン(DAZ)」という場所があります。その名の通り、中古車ビジネスに特化したエリアで、世界中の中古車バイヤーや業者がここに集まってくる。ここに行くと、本当にいろんな国の人が車を物色しています。アフリカ系のバイヤー、南アジア系のディーラー、中央アジアのトレーダー。みんなが日本車を探している。ドバイという街の中に、中古車の世界市場が凝縮されているようなイメージです。
▼世界中で日本の中古車を待っている人がいます▼
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世界のバイヤーがなぜ日本車を指名買いするのか
では、なぜその世界市場で日本車が選ばれるのか。
「10年落ちでもエンジンが死んでない」、これが全てです
ドバイのバイヤーたちが日本車を選ぶ最大の理由は、品質への信頼感です。特にアフリカや中東の内陸部では、車が壊れたときに修理できる環境が整っていないことが多い。だから「とにかく壊れにくい車」が求められます。日本車、特にトヨタ系は「10年、15年乗っても普通に動く」という実績が積み重なっていて、現地での信頼が非常に高い。「壊れるのが前提」の環境では、これは圧倒的な強みです。
ドバイの街を走る車を見ると、これがよくわかります。ランドクルーザー、レクサスLX、ハイラックスサーフ。SUV系のトヨタ車が本当に多い。暑くて道が広くて、家族で乗ることも多い環境にぴったりで、しかも壊れない。当然の結果です。
日本車が世界のどの国でどれだけ選ばれているのかは、海外が日本車だらけの理由|国別シェアと中古車が流れる仕組みに国別の数字でまとめてあります。
日本車なら壊れても部品が現地で手に入る、値崩れもしにくい
信頼性と並んで重要なのが「部品供給の豊富さ」です。
日本車は世界中に普及しているので、アフリカや中東の内陸部でも日本車の部品が比較的手に入りやすい。同じ車種が大量に走っているから、部品のマーケットが自然と形成されているんです。「修理できる車」であることが、「買われる車」の条件になっている。
もうひとつ、バイヤー視点で重要なのがリセールバリューの高さです。バイヤーは車を「売るために」買っているので、仕入れた車が適正価格で売れるかどうかが重要。日本車は需要が安定していて、価格が急落しにくい。バイヤーにとってリスクが低い商品なんです。これが「日本車なら指名買い」につながっている大きな理由のひとつです。
特に人気の日本車はやはり……

エチオピア北東部からエリトリア南部に広がるダナキル砂漠のツアーに使用されているのは、やはりトヨタランドクルーザーや日産パトロール
実際にどんな車が売れているのか、本当は商売上の秘密なんですが正直に書きます(笑)。
ランドクルーザーとランドクルーザープラドは、中東・アフリカ向けの中古車市場では圧倒的な人気を誇ります。理由はシンプルで、砂漠や悪路でも走れて、壊れないから。サハラ砂漠でも、アフリカのサバンナでも、日本のオフロードファンが遊びで使う以上のシビアな環境で毎日働いています。日産パトロール(サファリ)も同様の理由で根強い人気があります。
ハイエースとキャラバン(NV350)も非常に強い。アフリカや中東では、ハイエースが乗合タクシーや路線バスの代わりとして使われているケースが多い。人を運ぶ商売道具として、頑丈で積載量があって長く使えるハイエースは世界最強クラスの実用車です。
「こんなの誰が乗るの?」と思うような車も動きます。バス、トラック、消防車、ダンプ、パトカー。日本語の表記がそのまま残った路線バスがアフリカの路上を走っている、という話は都市伝説のように日本で語られていますが、これも実際のことです。あるバイヤーに「日本語が書いてあっても現地で使えるの?」と聞いたら「関係ない、走れば使える」とあっさり言われました。
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ドバイの中古車ビジネス、表に出ない部分の話
バイヤーが欲しいのは、必ずしも「いい車」じゃないんです。あるとき、バイヤーがプロボックスを買おうとしていたので、「もっと素敵な車があるよ」と別の車を勧めてみたことがあります。でも返ってきた言葉は一言。
「俺は乗らないよ」
彼が見ているのは「売れる先があるかどうか」だけ。プロボックスはタンザニアやウガンダで需要がある。だから買う。見た目とか乗り心地とか、そういう話は最初から頭にない。この感覚、最初は少し驚きましたが、ビジネスとして考えれば当然のことです。
ドバイに入ってきた車の行き先は、主に3つあります。ひとつは再販売。バイヤーがドバイ国内または近隣諸国のエンドユーザーに売る。もうひとつは再輸出。アフリカや南アジアなど第三国に送り出す。そして3つ目が解体・部品取り。
走行距離が多かったり状態が悪かったりする車でも、部品としてのニーズはあります。エンジン、ミッション、ボディパーツ。解体して部品として売る「解体ビジネス」も、中古車輸出の流通の一部を担っています。
日本の中古車は当然右ハンドル。でも世界の多くの国は左ハンドル(右側通行)です。アフリカの一部(タンザニア、ケニア、ウガンダなど)は英国の植民地の影響で左側通行なので、右ハンドルのままOK。でも北アフリカや中東、中央アジアの多くは右側通行なので、左ハンドルに改造するか、そもそも左ハンドルの車が必要になります。
「この車、どこへ売るか」によって、右ハンドルのままでいいのか、左ハンドルに直す必要があるのかが変わる。バイヤーはその行き先まで計算した上で仕入れています。
今、業界がざわついているホルムズ海峡問題
ホルムズ海峡という名前を聞いたことがあるでしょうか。ペルシャ湾の出口にある幅約50kmの海峡で、中東の石油タンカーの多くがここを通ります。そしてドバイへの船便も、この海峡を通る。
2026年2月、米国とイスラエルがイランに対して軍事攻撃を実施したことをきっかけに、イランのイスラム革命防衛隊が海峡の通航を禁ずる警告を発出し、海上交通は事実上停止しました。
これが、今まさに起きていることです。バイヤーから連絡が来ます。「これ、どうなるんだ?」
こっちも正直、すぐに答えられない。現状は「全面封鎖か全面再開か」という二択ではなく、「限定的に通れるが、通常の商業航路としては大きく傷んでいる」状態で、船会社に確認しても「様子見」としか言えない日が続いています。
喜望峰回りの迂回ルートを採用したことで航海日数が約2週間増加し、輸送コストが急増している業者も出ています。ドバイは政治的に中立な立場を保っていて、ビジネス環境としては非常に安定しています。でも地理的にペルシャ湾の内側にある以上、中東情勢と完全に切り離すことはできない。これがドバイビジネスの、数少ない、でも無視できない構造的なリスクのひとつです。
ドバイは終点じゃなくて、世界への乗り換え駅
日本の中古車がドバイに集まる理由、まとめると以下の3つです。
①ドバイは世界への乗り換え地点 アフリカ・アジア・中東への再輸出拠点として、地理的にも制度的にも最適な場所。
②フリーゾーンと巨大港が物流コストを下げる 関税ゼロ、ジェベル・アリ港の巨大インフラが中継貿易を可能にしている。
③日本車の品質と部品供給が世界中で評価されている 「壊れない」「部品がある」「値崩れしにくい」の三拍子が、世界のバイヤーを引きつけている。
入社1年目の深夜に「Jebel Aliに送ってくれ」と言われたあの電話から、ドバイと中古車の世界を少しずつ知っていきました。
日本でなんとなく中古車市場を眺めているだけでは見えない、巨大な流通の流れが世界には存在しています。ドバイはその流れの、大きな交差点のひとつです。
(写真:Adobe Stock)
※記事の内容は2026年9月時点の情報で制作しています。
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